のび太とバイク1
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のび太とバイク:
22 :774RR:2007/01/29(月) 20:49:54 ID:kv1wYaeQ
・・・俺は部屋の天井を見つめていた。最近特にぼーっとしている。
あぁ、思い返せばドラえもんがいたころは毎日が楽しかった。
毎日が充実していた。ドラえもんが帰ってから何年が過ぎてしまったのだろうか。
無事に公立高校に進学し、けじめをつけることができるようになったのか、漫画を読まなくなったのか、ある程度は勉強できるようになった。
そういやジャイアンに今度の期末の勉強一緒にしようと誘われてたなぁ・・・。
しずかさんは相変わらず校内順位は一番だし、スネ夫(と出来杉くん)は有名私立。
そういや俺はいつから「僕」と言わなくなったのだろうか・・。まあいいか。勉強でもするか。
体を起こしたちょうどそのとき、窓が震えてガソリンエンジンだろうと思われる排気音と聞き覚えのある特有のしゃがれ声が聞こえてきた。
「おぉ〜い、の〜びた〜!降りてこいよ〜!!」
俺はとっさに窓から身を乗り出し、
「ジャイアン!どうしたのそれ!!」
と叫んで道路に下りていった。
「へへ〜ん、すごいだろ!?」
バイクはこんなに近くでは初めて見る。
新品の輝きがまだ消せて無く、どうやらバイクを受け取ってそのままここへ来たみたいだ。
これはなんというバイクなんだろう・・・それまで興味すらしめさなかった鉄の馬に初めて興味を示した瞬間だった。
タンクと思われる部分になにか文字が書いてある・・・Z・・・e・・p・h・・・y・・・r・・・?Zephyr?
「これはな、川崎ってメーカーが出してるバイクでゼファー400ってんだ。ちなみに93年式な!」
「免許もってたっけ??」
「これもみろ!」
彼は手にかざしていた。これも新品同様まだ傷ひとつ入っていない自動車運転免許を。
「へぇ〜、いいなぁ!でも学校禁止だよね?」
「気・に・し・な・い!!」
といって俺は屁理屈を言ってしまったわけだがもう昔みたいに殴られはしない。・・・理由は・・・まあそのうち・・・。
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23 :774RR:2007/01/29(月) 20:51:12 ID:kv1wYaeQ
「俺も取ってみようかな〜、免許」
俺がその言葉を発するまでジャイアンの愛車自慢をちょっと前までやってた“リサイタル”並みの時間聞いていた。
だが、“リサイタル”とは違い、ジャイアンの声にずっと耳を傾けていた。
ジャイアンが“リサイタル”をやらなくなった理由を知れたし、ジャイアンのKawasakiに対する情熱と知識が、(月並みな言い方だが)まるでスポンジが水を吸収するがごとく聞き入ってしまっていた。
「おう、やってみろって!ほら、そう言ったらこれをやろうと思ってこれも持ってきた」
そういって差し出されたのは、自動普通二輪免許取得試験問題集と何月か前のバイク雑誌だった。
「ほら、これみて勉強して何買うかも決める参考にしろよ。俺はもう要らないからな」
「う、うん、まあ、ありがと」
そう言うと彼はメットをかぶり、バイクにまたがって、クラクションを一回鳴らしてどっかに行ってしまった。
「バイクかぁ〜」
俺はそうつぶやくと部屋に入った。
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33 :774RR:2007/01/29(月) 23:03:52 ID:RcO8ZJfh
その次の日から俺は教習所に通うためのお金とバイクを買うお金を貯めるために、ジャイアンの紹介で放課後からアルバイトをすることになった。
昔とは違うものの、基本は運動音痴で体力不足。
交通整理で赤く光る棒を振り回しながらただ立っているのさえきつかったが11時までがんばった。
今は4月。外でバイトするにはいい季節かもしれない。
毎日汗だくになって働いた。交通整理は5月の中頃で終わって人手が足りなくなった工事現場で働いた。
多少、いやかなりきつかったがそばにジャイアンがいて一緒に仕事をしていたことが唯一の励みだった。
ジャイアンは時々早く終わるとうちまでついてきて母の飯を食って、それからしばらくバイクを見させてもらったり、バイクの話や学校の話をした。
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34 :774RR:2007/01/29(月) 23:04:23 ID:RcO8ZJfh
そして7月の頭、約30万ものお金が貯まった。教習所へ通う前の日に両親に打ち明けることにした。
「父さん、母さん、普通自動二輪免許取りたいから明日から教習所に通うね」
何を言ったかわからないという顔でほおける母ともうそういう年頃か、と納得しているような父がそこにいた。
「あなたお金は?」
「貯めた」
「どうして?」
「乗りたいから」
今はこうしか答えられない。母にはいきなりのことでショックをかくせないようだったが、父は
「母さん、のび太もそういう年頃なんだ、自分で金は出すと言っているんだ。いいじゃないか」
頭の所々に白髪が目立つようになった父はそう言ってくれた。
「まあ、あなたがそういうならいいですけど・・・」
不信感を隠せない母。
「ありがとー、じゃあバイト行ってくるね!」
後に父にこの日の話を聞くとこう語ってくれた。
「あの日ののび太は久々に目が輝いてまるでとなりにドラえもんがいるみたいだった」と・・・。
ともかくも明日から教習所に通う日々が始まる。
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52 :のび太とバイク:2007/01/30(火) 14:00:07 ID:igq6pucP
その日の朝早く俺は目覚めた。この心の奥底から湧き上がる期待が、戸惑いが、
俺をいつもの深き眠りから呼び続けた結果だ。
入校式は昼過ぎかららしいので朝飯を食べて、早めに家を出た。
行きがけに母が、
「はい、お弁当。気をつけてね」
と言って俺を送り出してくれた。
昨日はあれだけ心配そうだった母が笑って見送ってくれたことは本当にうれしかった。
「行って来ます!」
11時半過ぎに教習所に到着した。
校内の練習コースを見ると車がところどころ走っている。
俺は受付をすませ休憩所へ足を運んだ。
誰もいなかったので弁当を開き食べていたところに、
「のび太じゃないか!?」
「のび太くんだよね?」
横を見ると見慣れた顔が2人立っている。
見間違えようもない頭のツッパリのヤツは分かるが、横の彼は誰だったか・・・。
「スネ夫!!・・・と誰だっけ?」
するとスネ夫の横の彼はふふふと笑い、
「のび太くんひどいなぁ!僕だよ〜、出来杉だよ!」
てめー自身で出来過ぎ、とか言ってるやつはこの世で一人しかいねぇ。
中学校の時まで煮え湯を飲まされ続けたあいつだ。そのくせに、ふらっと私立なんて行きやがって・・・。
だがここで敵意を丸出しにしてはいけない。そう俺の最大の友人から教わったんだ・・・。
「出来杉くん!久しぶりだね!!二人とも何をしてるの??」
そう、ここから俺たちの戦いは始まっていく・・・。
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58 :のび太とバイク:2007/01/30(火) 20:31:07 ID:igq6pucP
彼等はバイクの免許を取りに来て、今日2段階まで終えたようだった。
「俺は今日入校式なんだ」
「へえ〜、そうなんだ〜。早く一緒にツーリングとか行きたいね〜!」
こいつのいうことは相変わらず調子がいい。しかし・・・。
「うん!そうだね!!早く俺も免許取りたいな!」
「のび太はバイクとか決めてるのか?」
そう、その問題だ。免許を取るのは10万程度で出来る。しかし、問題は取った後だ。
乗らないなら乗らないでいいかもしれない。だが免許を取った以上はバイクに乗りたい。
4月にジャイアンからもらった雑誌を暇さえあれば眺め続けた。ホンダ、ヤマハ、ススギ、カワサキ・・・。
手が出るのは国産車のみだ。後々のことを考えると最初の一台は、高校の間は国産車に止めておいていたほうがいい。
「俺はまだ・・・」
言葉を濁す俺。
「俺はSV400を納車待ちだぜ」
「僕はXJR400Rだよ。親戚から譲ってもらうんだ」
二人はスズキとヤマハ。
俺はまだそこまでお金も貯まっているわけではなく、この教習所で10万ほど使ってしまう。
残るは、20万。まだバイトを続けてお金を貯めるしかあるまい。
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59 :のび太とバイク:2007/01/30(火) 20:31:39 ID:igq6pucP
彼等の卒業検定が明日の朝からあるのだという。見に来ないかと誘われた。
明日の11時から第1段階の授業が始まる。まあちょっとぐらい早起きしてもいいな・・・。
「わかった、見に行くよ」
入校式も難無く終わり、俺が帰る時間まで2人は待っていてくれた。気がつけばもう夕方。一緒に飯を食わないか、
ということになり、帰りがけに見かけたいいにおいのするラーメン屋に俺等は飛び込んだ。
「おじさ〜ん、トンコツ3つ〜」
あいよ〜、っという声が聞こえて俺達は昔話に花を咲かせた。だが、彼等は“ドラえもん”という名詞は
絶対に口に出さない・・・。もう立ち直ったんだからいいのに・・・。だが、そのことを口に出来ないのは
まだ心のどこかにひっかかっている証拠だろう。昔話が終わると友人たちの話はジャイアンと一緒で、
スネ夫がスズキ、出来杉がヤマハとそれぞれなぜそのメーカーにこだわり、そのバイクを選んだのか、
延々と聞かされた。苦ではなかった。むしろ発信源を友とするその情報たちは俺の知識と交じり合える
ことを喜んでいるように思えた。
「うまいな」
「うん」
「これは・・・」
しっかりと背油の浮いたスープだが妙にこってりしていない。それでいて主張する味。
麺は小麦粉のみで打ち上げられた細麺で、つるつるとした喉ごしとともに胃に入っていく。
彩るは太ネギの青い部分と白い部分が鮮やかだ。
きくらげのシャキシャキ感が食欲をさらに増加させ、舌の上でとろけるチャーシューはしょうゆ味でうまい。
これでもかと言わんばかりに煮卵のトロリとした黄身の部分にニヤケ顔にさせられる。
俺達が次に発する言葉がまったく一緒になるのも何等問題はなかった。
「おじさん替え玉!!!」
彼等と別れた後、俺は空を見上げて家路についた。
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70 :のび太とバイク:2007/02/01(木) 00:16:33 ID:CFe4xB1d
次の日、朝早くに起きると昨日と引き続き母の作ってくれた弁当を持って
俺は教習所に向かった。自転車で15分の距離。俺は初めて乗るバイクと
友人たちの卒業検定の様子を思い浮かべ、自転車を急がせた。
「おはよー」
友人たちの姿をロビーで見つけ、話しかける。
「いや〜、緊張するね〜」
っと出来杉。逆にスネ夫の方は余裕で満ち満ちている。
「早く公道で乗りたいなぁ!」
・・・スネ夫はあいかわらずだな。
しばらくするとアナウンスが流れる。彼等はそれに従い外に出て行った。
時計を見ると9時半。余裕だ。外に出ると彼等はちょうど車庫からバイク
を出している所だった。・・・あれはCB400・・・スーフォアか。ジャイアン
から貰った雑誌に書いてあったな。ホンダの名車スーフォア。あれに俺も今日
乗るんだと思うと心が弾む。乗りたいなぁ・・・。
そんなことを考えているうちに友人2人の卒検が始まった。まずはスネ夫
らしい。・・・ヘルメットによく収まるな・・・。しかし、それから行われ
たのは卒検ではなかった。そう例によってジャイアンの雑誌で見たことがある
“ジムカーナ”だった。スネ夫のライディング。卒検なのである程度までしか
スピードは出せないが、早い。隙がない。揺らぎがない。先ほどロビーでの彼の
余裕の表情表れ出でている。彼の特徴とすべき走り、それはコーナーからの自身の
体重の軽さを生かした加速だ。妙に滑らか過ぎる。しかも、S字、クランク共にバイクに
振り回されていない。暴れる鉄馬を軽く押さえ込んでいる感じだ。卒業検定とは名ばかりの
彼のステージ。・・・見せ付けられた・・・。
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71 :のび太とバイク:2007/02/01(木) 00:17:19 ID:CFe4xB1d
スネ夫が終わると同じバイクに出来杉がまたがる。・・・何が緊張する、だ。
出来杉という優等生はここでも、なにをやっても優等生なのか。スネ夫以上に
安定性のある走り。初心者の俺が見ていてもうまいとわかる走り。・・・くやしい。
卒検においてはスラロームは7秒以内でよい。しかし・・・彼はまるで一瞬。
交互に並ぶコーンをひらりひらりとかわし、リズムよく聞こえてくる排気音。
彼は停止位置にバイクを止めると手を挙げて終わったことを試験官に伝える。
メットを脱ぎ、さらりとした髪をかきあげる。・・・くっ・・・。
二人は卒業証明書をもらうと帰っていった。俺は取り残され、11時からの
本番に備えてジュースを飲みつつ、休憩していた。スネ夫と出来杉、正直、
悔しかったが彼等の走りは俺の魂に今まで決して灯る事の無かった炎を
付けてくれた。・・・うまく走りたい、誰よりも速く・・・。
その思いがCB400スーパーフォアを加速させる。今まで自転車しか乗ったことが
無かった俺だが、すんなりと乗りこなすことが出来た。クラッチ機構はジャイアン
から教えてもらっていたし、ジャイアンと共にしたアルバイトが俺の筋細胞を呼び
覚ましておいてくれたおかげだ。ある程度の筋力を持って乗る鉄馬はまるで生きて
いるかのように加速してくれた。
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72 :のび太とバイク:2007/02/01(木) 00:17:51 ID:CFe4xB1d
月日を重ね、もう八月。いつの間にか入った夏休みだが、アルバイトと教習所の
毎日だった。バイト代はいつもの1.5倍増しに貯まり、今日ようやく無我夢中で
通った教習所ともお別れだ。さっきもらった卒業証明書を右手に抱え、元気に
自転車をこいで家路に着く。すると、後ろの方から聞き覚えのあるマフラー音がする。
「ジャイアン!」
自転車を降り、彼はエンジンを切り、帰りがけにあるコンビニに立ち寄った。
「やっと卒業だよ」
そういって卒業証明書を見せびらかす俺。
「おっ、やったじゃん!後は免許センターに行って試験受けて免許もらうだけだな!」
「うん」
「そういや、バイクは買うのか?」
・・・痛い所を突かれた。まだ資金面で問題がある。9月までにはなんとか貯まる算段でいた。