華7【群雄割拠編】

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456 :華:2007/09/14(金) 23:07:30 ID:Fo4OUFiE
【群雄割拠編】

花子達が長野へと向かった時間より約2ヶ月程遡り、深夜の神奈川県のとある駐車場で二人の男がそこに居た――

ガシャーン…

「立て… ひろし…」腕を組み睨みつける様に中嶋ひろしへの視線と、厳しい言葉を男は投げつける。
「うっ… うぅ…くぅ…」中嶋は歯を食いしばって愛機を持ち上げ、歯を食いしばり立ち上がった。
「ふぅー…ふぅー…」呼吸が乱れているのか中嶋は自分の呼吸を整えるのに必至だった。

「ボケッとするんじゃねぇ! まだメニューの半分も終わってねぇぞっ!」男は中嶋へ言葉の鞭を打つ。
「は、はいっ! すみませんっ!」中嶋は慌てて愛機GSX400Sへ跨ろうとする。 だが、その様子を見て男は中嶋へ怒鳴りつける。
「ばかやろぅ! コケたなら一番先にやる事はなんだっ?」低い声だが駐車場に響き渡り、端から端まで通る声で怒鳴りつける。


457 :華:2007/09/14(金) 23:08:21 ID:Fo4OUFiE
「す、すみませんっ! じ、自分に怪我が無いかです!その次に車輌の点検です!」背筋を伸ばして大声を張り上げ男の質問に答えた。
「わかってるならさっさと行動しろっ!時間が惜しくないのかっ!!」男からの厳しい指摘に中嶋は急いでチェックし始めた。

男はジャケットの裏ポケットからハイライトを取り出し火をつける。 フゥーっと白い煙を吐き出し遠くにぼんやり見える街の灯りを煙で覆う。
(カタナでカツオ君に勝ちたいか… ふっ…お前みたいな奴…嫌いじゃないぞ ひろし…)車体をチェックする中嶋に目を細めて優しく微笑む。

「大丈夫です! 終わりましたっ!」中嶋はヘルメットを再び被り出そうとすると男の手から何かがゆっくりと飛んできた。
慌てて飛んできたものをキャッチすれば中嶋の掌には缶コーヒーが収まる。「少し…休憩だ。」男はそう言いながらハイライトを中嶋に差し出した。


GSX1100SとGSX400Sを並べ、眺めるように二人は地べたに座り込み、煙を肺へ送り込み深夜の風を愉しむかのように空を見上げる。


「すみません… 出来の悪い弟子で…」中嶋は肩を落として男に言う。
「………」男は黙って缶コーヒーを厚ぼったい唇に運ぶ。
「でも…一度でもいいから…磯野を抜いてみたい…いや、抜いてみせる!って…意気込んだものの…」
「ふふっ…」厚ぼったい唇の男は可笑しくも小さく笑った。 中嶋は不思議そうに男の顔を覗き込む。


458 :華:2007/09/14(金) 23:09:07 ID:Fo4OUFiE
「あのロスマンズとカツオ君のコンビに勝とうと思うお前は面白い奴だな。」男は缶コーヒーをグイッと飲み干す。
「なぁ?ひろし… お前は名刀・正宗と妖刀・村正の違いがわかるか?」そう言い出す男に中嶋は不思議そうに男の話を聞く。
「ほんとか嘘かは知らないけどな。この二本を昔、小川に刺して落ち葉を上から流したそうだ。」
「名刀・正宗に近づく落ち葉は正宗を避けるように流れたそうだ。」
「妖刀・村正はどうだったかわかるか?」と男は中嶋に問いかける。だが中嶋は首を横に振る。

「村正へ当った落ち葉はスパッと切れたそうだ。この違い…わかるか?」またも問いかける。中嶋は確かに頭の切れる男だが厚ぼったい唇の男が何を言いたいのか理解できず戸惑う。
「名刀ってのは無駄なモノを切らない、妖刀ってのは近づくもの全てを切ってしまう…」

「ひろし…お前は今…自分の刀を妖刀へと作り上げようとしている。気持ちはわかる。」男は2本目のハイライトに火をつける。
「………」中嶋は黙って聞くことしか出来なかった。
「確かにNSRというバイクはある種、成熟しつつあるバイクかもしれない。」
「だが…俺はカタナは可能性のあるバイクだと信じている。いや、信じたい…」
「うまくは言えねぇけどよ… ひろし…お前、妖刀に飲み込まれるなよ…」厚ぼったい唇の男は何処か寂しげな表情で中嶋を見つめる。

「はい…」意味深に語られた言葉に何かしらの真意を感じるも、まだ中嶋ひろしには全てを理解する事が出来なかった。






459 :華:2007/09/14(金) 23:09:55 ID:Fo4OUFiE
「そ、そういえば…よく例のブツ頼めましたね?」と中嶋は厚ぼったい唇の男に質問した。
「そうだな… だが、感謝するなら俺じゃなくてフグ田君に感謝するんだな。」
「えっ……?!」驚いた表情で中嶋は男の目を見る。
「ホント偶然でね。 取引先の方がドイツの職人と知り合いだからってもんだから、お前の話をフグ田君に伝ってお願いしたって訳だ。」

「ま、出来上がるのは半年以上待つことだな!先ずは腕を磨け、ひろし」少しからかう様な表情で中嶋の頭をポンと叩く。
「さしずめ、妖刀を収める漆塗りじゃない鞘って所か?」笑いながらハイライトの煙を吐き出す。
「さっ!休憩終わりだ!ここでのメニュー仕上げたら、今度はC1を軽く20周程流して今日は終わりだ。」ハイライトの煙を吐き出して立ち上がった。
「ひぇ〜…2…20周?!」中嶋は手を付いて肩を落とす。

「はっはっはっ!バカヤロゥ!この程度でへこたれてるんじゃねぇ!カツオ君に追いつくんだろ?【今日】は20周で勘弁してやる!」笑いながら腰に手を当てる厚ぼったい唇の男。
「い゛ぃ゛ぃ゛…」中嶋は嫌がる声を出すも眼鏡の奥には成し遂げてみせる漢の瞳が確かにあった…





460 :華:2007/09/14(金) 23:10:47 ID:Fo4OUFiE
[SUZUKI・GSX-400S ]
ケルンの衝撃から11年。SUZUKIがファンの熱望により1992年に世に送り出した一台。
GSX-Rのユニットを採用し、洗礼されたフォルムはオリジナルの1100を忠実に再現させファンを魅了させた。
GSX−Sシリーズにおいて400クラスをリリースした事により1100・1000・750・400・250全5カテゴリーに
「カタナ」ファミリーが存在する事になった。
水冷4stDOHC4バルブ並列4気筒で53ps 398cc
現時点での物語で中嶋ひろしの愛機は純正を保っているが「目標」の為に妖刀へと変貌を遂げる事となる。



そして――… 時は元の時間へと戻り、秋深い山の景色が紅葉色へと変わり始めている季節。

早朝…2台のバイクがターンパイクを駆け登り大観山へと姿を現す―――…



564 :華:2007/10/10(水) 19:09:05 ID:1w8XHO5K
早朝の大観山へターンパイクから黒い空冷4stOHC4バルブと白い水冷2stピストンリードバルブがサウンドを織り交ぜて駆け上ってくる。


そして、その二台を見た大観山ドライブインのギャラリーは小声でどよめき出す…

「お…おい… 翁が連れと来た…ぞ? は、初めてじゃないか??」二十台後半位の男が驚いた表情で周りの人間へ言う。
「あ…あぁ… 俺も翁が人を連れてくるのはじめて見た。 誰だ? あの小太りのおっさん…」仲間と思われる男が言葉を返す。

そんな周りの小声を気にもせず、翁は真ん中のベンチへと腰掛ては懐から愛用のパイプを取り出し火を点す。
「いやぁ〜、さすがSRXですね。 前のSRよりも随分と…」小太りの男はマルボロを取り出して火を点す。
「ふふふ… 何年ぶりだい?ここは? もう10年経つかね?」翁は冷える朝の箱根を見下ろして小太りの男に聞く。
「そうですね。 もうそんな経ちますか… ふふふ、月日は早いですね。」煙を口の中に含ませる様な仕草をして大きく煙を吐き出す。


二人の間に暫くの沈黙が続く…






565 :華:2007/10/10(水) 19:09:51 ID:1w8XHO5K
「寂しくは無いのかね? 私には想像もつかん苦しみだよ。花沢…いや、坊や。」翁は白いジャケットに身を包み左肩に『坊』と刺繍された男に尋ねる。
「寂しくなんかありませんよ。妻が好きだったRZがありますから。 今じゃコイツが女房かもしれませんよ。」冗談めいた顔つきで翁に言葉を返す花沢。
「ふふふ、とても10年もブランクがあるとは思えんがね?坊や。」少し嫌味顔で花沢に言葉を返す。
「花子がアルバイト始めた時からですかね。 花子が家を空ける時間が出来るので、その間にリハビリをしていた… そんな具合ですよ。」
「坊や。いつ花子君に教えるつもりだい?」翁は花沢へ問う。

「坊や…ですか。 ふふふ、あなたにそう呼ばれるのも随分久しいですよ。やはりここは心地良いですね…」
「花子には成人した時に妻の愛したRZと私がライダーである事を言おうと思ってますよ。今はまだ…私も首都高で伝えねばなりませんから…」

「首都高に上ったそうだね? 随分と界隈じゃ噂になっとるよ。なんでもカツオ君をごぼう抜きしたそうじゃないか、坊や」翁は灰を灰皿へと捨てて笑い出す。
「そうみたいですね。 私も後でカツオ君という事知りましたよ。」花沢は短くなったマルボロを灰皿に擦り付け苦笑いを返す。


二人は久しくライダーとして再び語り合う事を楽しんでいた。





566 :華:2007/10/10(水) 19:10:37 ID:1w8XHO5K
「あ…あの…あの白のジャケット!」40台半ばの男性が突然声を出して驚きだす。
「どうしました? 翁のあの連れ知ってる方ですか??」先程の20代後半の男が聞き返す。
「知ってるもなにも、あの人は10年程前に首都高最速を許された『RZの花坊』だよ… バイク降りたと聞いていたが…」
「でもRZっすよね? もう亀じゃねぇっすか?」20代後半の男は40台半ばの男に言う。
「ところが最近首都高でロスマンズをぶち抜いたって話で持ち切りなんだよ。 RZと聞いてまさかと思っていたけど…こりゃ今日は凄いんじゃないか?」胸躍る様な目つきで語り出す。
「え?どうしてです?」20代後半の男は尋ねる。
「翁が久し振りにマジになるんじゃないかなってね。」嬉しそうに椿ラインの方を眺める。


翁と花坊は同時に煙草の煙を噴出しては火を消し始める。

「坊や。10年は長い… マシンも違う。わかるかね?」断片的な言葉だけを並べる翁。
「それは私とて同じですよ。10年前のエンジンとは違いますよ。椿翁」敬意を込めて椿翁の名を声に出す。


567 :華:2007/10/10(水) 19:12:12 ID:1w8XHO5K
そして二人は黒き獣と白き獣に生命を吹き込む… 朝日が大観山にさし込み山々が順々に姿をはっきりと見せ始める。

――ド ド ド ド ド ド――

――プァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛――

今…椿ラインに2台の猛獣が解き放たれ、先手を打ったのは椿翁・伊佐坂。追うは花坊・花沢。


――そして闘いは序盤から一気に加速し始める…――


568 :華:2007/10/10(水) 19:13:13 ID:1w8XHO5K
[YAMAHA RZ350]
1979年、東京モーターショーに「究極のロードスポーツ」としての意が与えられYAMAHA渾身の意欲作が展示された。
RZはYAMAHAがロードレース界へ供給していた「TZ」のコンセプトを受け継ぎ、徹底したファンライディングコンセプトを持つモデルで当時のライダー達を釘付けにした名車。
ロード市販車初採用のモノクロスサスや180度クランクエンジンを採用し、コンピューター解析から生れたオーソゴナル式マウント。
軽量化された火焔型キャストホイールや低重心化などシャーシ全体も革新的な技術が取り入れられた一台。 RZ250は1980年8月に発売されRZ350は1981年3月に発売される。
RZ350は国内では『ナナハンキラー』の異名で、海外では『ミニロケット』とも称され人々に愛されている。
水冷2st・ピストンリードバルブ並列2気筒 347cc 45ps 物語で花子の父が搭乗するRZのカラーリングは白地に青の定番ライン。 尚、花子の父が搭乗するRZ350には幾つか改良が施されている。


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