華2【海鮮組・バイト編】
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240 :華 :2007/02/07(水) 20:39:25 ID:Ac13A9UU
【海鮮組・バイト編】
自宅に無事帰ると今日も父は外食ついでに何処に出かけているのか、家には居なかった。
部屋に入ると机の椅子を引いて腰掛けていた。あの後、足元のポーチを手に取ってから不思議と恐怖感は無く別の感情が湧き出ていた…その感情が何なのかを考え込んでしまう。
突然ポーチを奪われ風の様に現れた異形の者。私の嫌いな不良とはまた違う… その姿、その行為からは「正義」が感じられた。
世間一般的に「正義」と言えば警察だろう。だが私は警察には良いイメージが無い。何処か「正義」という言葉を巧みに使い弱者をいたぶる偏見が私には当時からあった。
しかしどうだろうか?あの異形の者からは「絶対正義」という今の私に「失われたモノ」が、「絶対正義の形」が、そして「行為」とし、あの瞬間にはあった。
そして私は一つの決心をし、部屋を出て電話を手にし「*2*2…」と早川さんへ深夜遅くに決意のメッセージを送る。
そう、「私もバイクに乗る」と…
一つの決心をしベットに潜り込み目を閉じる。浮かび上がってきたのは能面の「翁」 バッと飛び起き異形の者が誰だか理解した。
喫茶「珈琲・浦野」の白髭のマスターである事に私は気が付いた。明日学校が終わったらお礼を言いに真っ先に向かおうと決意し、ベットに入り目を閉じた。
241 :華 :2007/02/07(水) 20:40:11 ID:Ac13A9UU
学校の授業が純粋にかったるい…特に英語は嫌いだ。そんな英語の授業中に早川さんからバイブレーションでポケベルが震える。「見せたいものがあるんだ」というメッセージだった。
退屈な授業が全て終わり、帰り際に「いつものところで」と学校の公衆電話から早川さんへメッセージを送る。急いで帰宅しカバンを放り投げ、スグに家を飛び出した。
ふと我に返り「とおちゃん、ごめん今日も遅くなる」というと父は「あぁ、わかった」と微笑しながら私を見送った。
喫茶店に入るや否や白髭のマスターにデカイ声で豚足をピンと伸ばし「昨日は有難うございました!」と全身全霊を込めて深くお辞儀をした。
白髭のマスターは不思議そうな顔をして野太く低い声で「んん? 花ちゃん、どうしたんだい?」と言ってきた。咄嗟に私は「えっ?!」と声を出し、入り口真上に吊るされている革ジャンを確かめる様に目を向けた。
が、革ジャンが無い…
えぇ?っと混乱する私は昨日の事を細かく白髭のマスターに話すと「カッ!カッ!カッ!」と野太く低い声で笑う。更に私は混乱すると白髭のマスターはもう一言添える。
「そうかい、花ちゃん。アレはね 古い友のモノなんだよ」と優しく言う。誰なのかと聞くと、いつものニコニコした顔で流しのコーヒーカップを洗い出していた。当然昨日の異形の者は白髭のマスターとばかり思い込んでいた私は呆然とした。
その呆然としたタイミングで早川さんが「やっほ〜二人とも〜、マスタ〜ブルマンお願い〜 あ、あとアップルパイまだ残ってたら2つ〜」と声をかけてきた。
242 :華 :2007/02/07(水) 20:40:41 ID:Ac13A9UU
いつもの奥の小さなテーブルに腰掛け、私は昨日の出来事を早川さんに話し出した。すると早川さんは「へぇ〜、カッコイイ!素敵な事じゃな〜い」と瞳をキラキラさせていた。
「そうそう、見せたいのってコレコレ!ジャ〜ン」と間髪いれずカバンから取り出したのは、ヨレヨレになった今月出たばかりの「オートバイ」という本だった。
実は早川さんはバイクに乗る事を親にはまだ言ってないそうだ。それもそうだ。もうすぐ高校3年になる私達が進路を決めなければならないこの時期にバイクに乗るなんて、まして女の子がバイクに乗るというのは親として目をつぶる訳には行かないからだ。
そういう理由から常にカバンの中にこの本を忍ばせていたし、私と久し振りに出会った時右手に持っていたこの本を後ろに隠したそうだ。
私は近所には顔が広いのは周知の事だが、その顔の広さと情報量から中学生までは人間拡声器と呼ばれるくらいでそんな理由からだと思うが、あの時早川さんは慌てて雑誌を隠したんだろう。
そんな人間拡声器の私も高校にあがってから父に「他人の家の事情や出来事をあまり噂するもんじゃない」と本気で叱られた事があり、父の言葉を守り人間拡声器の異名もいつしか近所から消えていた。
ヨレヨレになったオートバイという本を二人で広げアレコレ話が弾む。全く興味の無かったバイクにのめり込んだ瞬間だった。国産4メーカーを知り排気量によって免許が違う事もこの日初めて知った。
夢中になったし今までに無い楽しさを味わい、そしてコーヒーを味わった。白髭のマスター手作りのアップルパイを二人で頬張りつつ、中型免許取得の話に盛り上がりはピークに達した。
そして未知なる世界のジグソーパズルのひとつのピースが、またはめ込まれて行く…
261 :華 :2007/02/08(木) 20:15:08 ID:lzT1tyvH
中型免許を取るには2つの難関がある事を早川さんは真剣に言い出した。楽しい話に浮かれていた私は急に現実に戻された感じだった。
ひとつはバイクに乗るのに親に隠して乗る訳にはいかない為、親を説得しなければならない。そしてもう一つは免許とバイクのお金だった。
明日の休みにでも早川さんは親を説得する事を試みるらしく、私も明日父を説得してみる事にした。コレさえ乗り切れば後はお金の問題だけだ。
そのお金の工面は既に早川さんは去年の秋頃から動き出していたらしく既に免許取得するまでのお金(合宿込み)は今も続けているアパレル関連の土日のアルバイトと少しずつ貯めたお小遣いで用意できているとの事。
免許取得は夏休みの合宿を使っての取得を考えているらしく私もその考えに便乗した。 しかし問題は私にあった。
私は憧れ始めたバイクにはお小遣いだけでは到底免許とバイクには手が届かなかった。「花沢不動産の一人娘」と聞けば、いかにも持っていそうなイメージがあるかもしれないが
父はお金には厳しい人で小さい頃からお年玉をくれる福島の叔父さんや親戚の方々の多額なお年玉は全て私の花嫁資金として別口座に預金していた。
ならばと私は本格的にアルバイトをしようと考え始めた。明日、父にバイクの事とアルバイトの事を正直に話そうと決意した。
262 :華 :2007/02/08(木) 20:15:48 ID:lzT1tyvH
中型免許取得に夢中になるあまり、異形の者が誰なのか?と、考える事をずっと忘れてしまう事になる。
「そうだ!思い出した!」と早川さんは突然話題を切り替えてきた。「この間、磯野君と中島君がピザ屋の配達やってるの見たよ」と言ってきた。
もう磯野君の事は吹っ切れたし、バイクに夢中な私は早川さんと「珈琲・浦野」でバイクの事を話すのが楽しくて仕方が無かった。
どうやらピザ屋で相変わらず無茶をしているらしく、バイクを壊して今はカブでピザ配達をしているらしい。 プライベートでは磯野君がNSR50、中島君がモンキーに乗っているという事も早川さんの友人情報から初めて知った。
まだ彼らも中型免許を取得してないが、後に「磯野カツオ」「中島ひろし」 そして…あの女「大空かおり」が首都高に名を轟かせるのはまだまだ先の話になる。
バイクの免許を取る。アルバイトをする。なんだか胸がドキドキし始めると同時にワクワクしてきた。早川さんも同じらしく二人で顔を微笑ませながら「オートバイ」を開いては知識を詰め始めてゆく。
モダンな雰囲気の店内で小さく流れるJazz。カウンターには60台位の男が夕刊を広げていたり、近所の主婦連中がドリフの笑い声を発しながら談笑していたり、
店内を優しい瞳でニコニコ見つめながら白髭のマスターは珈琲豆を焙煎している。この喫茶店は本当に安らぐ場所だと改めて感じ、10日ほどの出来事が退屈な高校2年を埋めるかのように充実していた。
胸躍る感情と容量の少ない私の脳に対して膨大なバイクの知識が抑えきれないまま「珈琲・浦野」を後にし、早川さんと別れ家路に着いた。相変わらず父は今日も私が眠りに付くまで帰ってくる事はなかった。
263 :華 :2007/02/08(木) 20:16:31 ID:lzT1tyvH
休日の夕方、父との夕飯を済ませ私は父に真剣な眼差しで免許とアルバイトの話をし始めた。いきなりの出だしだから…と心の中では反対されるものだと思っていたが、あっさりと父は了承してくれた。
嬉しさのあまり飛び上がった。
豚足を床にドスンと着地させると父は座るようにと私に言い聞かせた。「これだけは覚えておきなさい」といつもは優しい眼差しの父が厳しく鋭い眼光で私に言葉を向ける。
ガタンガタンッ!…ガタンガタンッ!…ガタンガタンッ!… 都心から朝日ヶ丘駅に向かう列車が家の裏の線路を駆ける。 通り過ぎた後、父は重々しく口を開いた。
「いいか?花子…バイク乗りはバイ…」と言い始めたが父は言葉を止める。 上を見上げ、揺れている電気の紐を眺めながら小声で「いや…やめておこう。きっと脈々と…」と呟くが私には駅のホームから聞こえるベルの音で聞こえなかった。
父は改めて言う。「自分が選んだ事だ。自分でお金を貯めると言うことは良い機会だ。事故だけは気をつけなさい。それと勉強も。」そう父は言い残して事務所へと去っていった。
父が去った後、やった!と嬉しくガッツポーズを小さくとる。次には早川さんへメッセージを高速ベル打ちで「オッケー出た」と送る。その日の夜11時には早川さんから「私もオッケー」とあまりにも予想外な答えが返ってきていた。
264 :華 :2007/02/08(木) 20:17:13 ID:lzT1tyvH
次の日曜日に私はチラシの求人を眺め、とにかく高給が無いか?と躍起になっていた。豚鼻から蒸気機関車の様に勢いよく荒れ狂う息が噴出す。
そして見つけた。「日給2万・力求む!集え筋肉!海鮮組(面接試験有)」という枠に飛びついた。に、日給2…2万??す、すごい!と思うや否や面接試験の受付を電話で済ませ、夕方にある面接に向け時間を潰した。
このアルバイトが未知なる世界のジグソーパズルの重要なピースの一つ、そして高校3年の進路選択に繋がる大きなターニングポイントになる事に私はまだ知る由も無かった。
276 :華 :2007/02/09(金) 20:30:22 ID:wYPVqUhP
夕方、私はバスに乗り朝日ヶ丘の中心街から離れた海鮮組事務所へ向かった。
事務所という名のプレハブの前には、チラシの宣伝効果からか50人を越える屈強な男達が集まっていた。
どうやら集まった50人を越える男達は皆、面接に受けに来た人間という事は即座に理解できた。
筋骨隆々な男や坊主頭で腕に刺青の入った男、まだ寒い季節にも関わらずタンクトップにはち切れんばかりの胸板の男。力におぼえのある人間がそこには集まっていた。
当然そんな男達の中に女は私一人だった。
「おいおい、お嬢さん 場違いって言葉知ってるか?」と皮肉を言われるが私は黙って我慢した。するとプレハブのドアが勢いよくバンっ!と開き、中からは190cmは越えるであろう60代の大男が現れた。
その男はあまりにも大きく、その場に居た屈強な男達の筋肉も鶏ガラに見えてしまう程の肥大した筋肉が作業着からでもハッキリと伺えた。
太い声で「お〜し 今日は面接に集まってくれてありがとう ワシがこの海鮮組の親方をやっとる海 千山(うみ せんざん)だ。」と集まった面接者に言い放った。
「海鮮組は力が全てだ!集まってもらったのは他でもない。自信がなけりゃぁとっとと帰るこった。力に自信のあるやつぁ面接受けろ」
277 :華 :2007/02/09(金) 20:31:03 ID:wYPVqUhP
さっきまで己の筋肉を見せびらかし、ざわついていたプレハブ前は一気に凍りつく。ある者は怯え、またある者は威風堂々とした姿に恐怖した。
「それじゃ これから事務所の中で面接試験やるから二人づつ入って来い。 な?」そう言うと海親方は事務所に入って行く。
事務員と思われるツンと尖った眼鏡を掛けた賢そうな女性が順番に並べ、私は最後の面接者となった。その隣には私と同じくその場に似合わない中肉中背の大学生らしき男が居た。
面接が始まる。すると隣の男が「君も面接なの?! じょ、女性なのに?」と言う。私は黙ってその男を見ていた。「理由は人それぞれだろうけどさ、お互い受かるといいね!」と明るく微笑んだ。
私は「有難うございます。受かるといいですね。」と微笑み返す。すると事務所から最初の男達が出てきた。 「あ、ありえねぇ…」そうブツブツ呟きながらプレハブを去っていった。
次々と落胆する筋肉隆々な男達がプレハブから吐き出す様に事務所から出てくる。 どうやら並みの試験じゃない事を残された私や面接者は感じ取った。
私達の順番が回ってきた。恐る恐るドアを開けると「おぅ!おめぇらで最後か!よし、前に来い」と海親方は太い声で言った。
足元にはセメント袋が4袋づつ用意されていた。
「よし、それ担げ」
278 :華 :2007/02/09(金) 20:32:18 ID:wYPVqUhP
いきなりだった。名前も聞かず突然に要求された。大学生らしき男は必死に2袋までは持ち上げた。すると海親方は「あの椅子まで歩いて椅子の上に落とさねぇでのぼってみろ」
男は必死に歩き椅子に足を乗せようとするがセメント袋を落として転んでしまう。その姿を見て「おぅ、嬢ちゃん 次はおめぇだ。ここじゃ男女関係ねぇ。自信がありゃやってみな」と言う。
私は豚鼻を大きく広げ大量の酸素を吸い込ませる。酸素は肺に入り込み全身の筋肉へ入り込む。 ググっと豚足の蹄に力を入れ、そして袋をまず1袋ひょいと左腕で担ぐ。空いた右手で2袋、3袋、4袋…
「ほほぅ、こりゃ驚いたな」と海親方は私の腕を見始める。
一歩、二歩と歩き出し、セメント袋4袋を左腕で担ぎながら椅子に難なくのぼりきった。すると親方は立ち上がりゆっくり近づいて私の脹脛(ふくらはぎ)を触る。
「嬢ちゃん、あんた普通の筋肉のつき方じゃねぇな 何処で何してたんだ?」と担いでいた4袋を右手で2袋、左手で2袋の端を指で挟んで床に下ろした。その光景を見た大学生らしき男は「う、うそだろ…!?」と驚愕する。
私は海親方に小さい頃から福島の叔父さんが運営する牧場の手伝いを夏休み・冬休み共に手伝い牧草を運んだり、牛を引っ張ったりしていた作業や農作業も手伝っていた事を話す。
海親方はその話を黙って聞き終えると「嬢ちゃん、名前は?」
「は、花沢花子です」と背脂を伸ばし、裏返った声で返した。
279 :華 :2007/02/09(金) 20:32:52 ID:wYPVqUhP
「おし、気に入った!いつから春休みだ?」と聞いてくる。私は「あ、明後日から休みです!」と豚っ面を引きつって答えた。 「おし、明後日から来い」
どうやら私は合格したようだ。余談だが私はこの面接内容には自信があった。セメント袋を重ねて担ぐには福島の叔父さんの牧場で束ねられた牧草を運ぶ時にコツを覚えていたのでセメント袋も難なく担げた。
中学の頃の体力測定では背筋220s、握力は両手共に75s、肺活量は6000mlを記録し人とは飛び抜けた体力の持ち主だった。
それは高校になっても衰える事無く、小さめの林檎であれば潰す事も出来た。そんな肉体を持つ私も跳び箱6段だけは今現在も飛べないのである。
海親方は「おい、ひよっこ。おめぇ最後に言う事あるか?」と大学生らしき男に聞く。「ぼ、僕は 僕は強さが欲しいんです。 じ、自分を変えたいんです」と言葉を返した。
その後、海親方に自分が東京大学の文学部に所属している事を話し、文学以外の「何か」を見つけたくて面接を受けに来たと言う。
海親方は黙って話を聞き終えると「おめぇは今日から文学ってあだ名だ。 おめぇも花と同じ日に現場に来い」彼も合格したようだ。 そして「花ちゃん」「花さん」と呼ばれていた私が「花」と呼ばれる様になったのはこの時からだった。
311 :華 :2007/02/10(土) 22:09:06 ID:UuioiWza
面接も無事に合格を貰い私は嬉しかった。働いて働いて合宿費用とバイクの費用を貯めてやるんだ!と鼻息荒く自宅に帰った。
自宅に帰ると父が何やら包装紙を綺麗に取り外し、中の木箱の蓋をそっと開く。「おぉ〜!流石は博多の明太子だなぁ〜見事だ」と嬉しそうに明太子を眺めていた。
「ただいま、とおちゃん。どうしたの?その明太子」と私が聞くと父は「おぉ、おかえり。田中さんがね、先日の件でお礼にと博多から送って来たんだよ」 先日の駐車場の件でのお礼との事だ。律儀な人だと感じた。
「しかし、今回は田中さん…不幸だった。」と父は呟き出す。父の話では田中さんは駐車場を借りた日の深夜に、福岡の実父が倒れそのまま息を引き取ったとの事。
次の日の昼頃、ウチに電話があったらしく急遽福岡へ帰る事になり奥さんと共に福岡に飛んで帰ったそうだ。
まだ暫く福岡に滞在しなくてはならないらしく多忙な日々を送っている、と父から聞いた。
私もアルバイトが決まり父に報告すると「ほほぅ 海さん所か あの人は一本筋の入った人だ。見た目は怖いが根は良い人だから」と言い出した。
不動産関連の仕事柄で昔から良く知っている人らしく、何やら嬉しそうに微笑んでいた。
私は早川さんへ「バイト決まった」とベルを打ち込み、続けて「明日もいつものところへ」と打ち込むと、すぐに「いいよ」と返事が返ってきていた。
312 :華 :2007/02/10(土) 22:09:48 ID:UuioiWza
私は近くの本屋に走り、バイクの本を幾つか買い込んだ。買い込んだ本を部屋に持ち帰ってはベットに寝転びながら本に噛り付いた。
楽しくて仕方が無かった。どんなバイクに乗ろうかと、バイクの写真を見ては自分が跨っている想像をして楽しんでいた。
雑誌の記事に温泉へ入りに行く記事や郷土料理を食べにツーリングする記事には、当時カルチャーショックを受けた。と、言うのも温泉や郷土料理など食べに行くのは私は「旅行」でしか味わえないものと考えていた。
そもそも「旅行」というのは車や電車、飛行機などの乗り物に乗り込んで目的地まで行き、現地の景色、文化、食事を味わうものと考えていた。
だがバイクは違った。自分の手で、自分の意思で目的地へ赴く。なんて凄い乗り物なんだろうと改めてバイクの魅力にのめり込んでいった。
明日は退屈だった高校二年生の終業式。明後日からの春休みは海鮮組でアルバイトが始まる。
高校生になってから中学のみんなとバラバラになり何かを失いつつあった今の私の心に一つ一つ埋めるかのような充実感が埋まり始めていた。
ラジオから流れる「東京の開花は4月6日〜7日頃です。」と言う言葉を聴いてパチッとスイッチを切り眠りについた。
313 :華 :2007/02/10(土) 22:10:31 ID:UuioiWza
校長の何度も同じ事を繰り返し延々と続く内容を聞き終え、終業式は幕を閉じ私の退屈だった高校二年生も幕を閉じた。
早川さんの私立高校も同じ日に終業式で、私は自宅に帰り「珈琲・浦野」へと向かった。もちろん買い込んだバイクの雑誌を抱えて…
既に早川さんは奥の小さなテーブルに腰掛けており、昼間の店内は人でごった返していた。いつもは夕方頃に来店していた「珈琲・浦野」の雰囲気とはまた違った風景だった。
ガヤガヤとざわつく店内に笑い声が所々聞こえて来る。いつも60代くらいの男性が新聞紙を広げて読んでいたカウンター席もカップル達で埋め尽くされていた。
抱えていた雑誌とポーチを上にあげて「通りま〜す」と言いながら奥の小さなテーブルに辿りついた。「凄い人ねぇ〜」と手を小さく振りながら早川さんに挨拶した。
「でしょ〜? 私もこの時間来るの初めてだけど凄い人ね」と嬉しそうに笑うと「そうそう、コレ!私も沢山買っちゃった!」と言いながら抱えていた本を小さなテーブルに広げた。
早川さんは突然笑い出す。どうしたんだろう?と首を傾げると早川さんも同じ雑誌を沢山広げ始めた。「親が公認してくれたから私もいっぱい買っちゃった!」
「ふふ」と早川さんが笑うと私も可笑しくなり「グフフ」と笑い出した。
「でも、よく早川さん説得できたわねぇ」と聞く。 「うん、最初は猛反対されたんだけどね。免許もバイクのお金も自分で出すっ!って大声出したらお父さんが渋々OKしてくれたの」と嬉しそうに話し出した。
ただ、条件として学力が落ちるような事があったらバイクには乗せない、という条件付らしい。
314 :華 :2007/02/10(土) 22:11:06 ID:UuioiWza
私も明日から始まる海鮮組のアルバイトを話すと「ええええぇっ!は、花ちゃん…に、肉体労働?」と驚くも「は、花ちゃんらしい」とクスクス笑われてしまった。それもそうだ。そう感じた私も自分自身に笑い出してしまった。
それからバイクの雑誌を読み始め、コーヒーを啜りながらアップルパイを頬張る。合宿何処に行こうか?どんなバイク乗ろうか?何処にツーリング行こうか?と話が途絶える事はなかった。
「そうそう、私達が久し振りに会ったバイク屋さん覚えてる?」と早川さんが言い出した。「うん、ガンマが飾ってあった看板の無い所でしょ?」とコーヒーを啜った。
「あのお店まだオープン前らしいよ」と雑誌を左手で開き右手でアップルパイを口に運んだ。
どうやらバイク屋さんの諸事情によってオープンには至らないらしく4月にはオープン出来るという事だった。
「ねぇ!オープンしたら時間のある時にそのバイク屋さん覗きにいきましょうよ」早川さんが提案をしてきたが「う〜ん…まだ免許もないのに冷やかしにならないかしら?」と不安そうに私は答えた。
ちょっとだけ!という早川さんの押しに負けてしまい、オープンしてお互いの時間が合えば覗いてみるという事に強引に決まってしまう。
この早川さんの強引な案が二つの再会を果たす事になる。
そしてまた未知なる世界のジグソーパズルのピースが一つ、二つとはめ込まれて行く。
330 :華 :2007/02/11(日) 20:36:25 ID:LUvLb6Bf
いよいよ海鮮組のアルバイトが始まる。
私は朝日ヶ丘駅近くの建設現場へと向かった。到着すると現場は建設中のビルで建設予定の看板には「かもめビル建設中」と書かれていた。
「おぅ!花、はえぇじゃねぇか。」と海親方が声をかけてゆっくりと近づいてきた。
「おはようございます。今日から宜しくお願いします!」と気合を入れて豚足をピンと伸ばし深くお辞儀をする。海親方は「おうっ!宜しくな」ニコっと笑った。
するとブォォォォォ〜ンという音と共に一人の男が現場へとやってきた。その車輌を見れば「KAWASAKI ゼファー400」という事は私にはすぐにわかった。
「Kawasaki ZEPHYR400」レーサーレプリカ全盛期に川崎重工が世に送り出した一台。46馬力2バルブの空冷ユニットを搭載し、その車体ラインは名車ZUを彷彿させるスタイル。
「ネイキッド」という言葉を生み出し、レーサーレプリカブームの流れを変える一石を投じた車輌である。
「おはようございます」そう言いながらフルフェイスを脱いだのは驚いた事に文学さんだった。 「ほほぅ、文学 お前バイクのるんか?懐かしいなぁカワサキか?」と海親方は文学さんに近づきながら挨拶をした。
文学さんは照れくさそうにゼファーという名前である事を海親方に説明しながら車輌を現場へ駐輪場へと押していた。文学さんもバイクに乗るんだと、心の中で少し親近感が沸き始めた。
331 :華 :2007/02/11(日) 20:37:19 ID:LUvLb6Bf
私たちは作業着に着替えビル建設前の広場に集合した。そこには親方程ではないが肥大した筋骨隆々な男達と尖った眼鏡の事務員の女性が整列していた。
海親方の挨拶の後、私達の紹介が始まり、いよいよ仕事が始まろうとしていた。
文学さんは親方に恐る恐る質問し出した。「あ、あの… 面接の合格者って僕達二人だけなんですか?」 そういえばそうだと私も気付いた。
海親方の話によると合格者は私たち含め、たったの7人で残りの5名は突貫工事が進められている海山商事新社屋の建設現場へと向かっているとの事。
更に突貫工事の進められている新社屋にほとんどの重機類と海鮮組の若い衆が出向いているそうだ。
私達の現場にはほとんどの重機類は無く、数日間は階段を使って資材を上へ上へと運ばなければならない過酷な現場だった。
「心配すんなっ! こっちはよ!少数精鋭ってヤツだ!」と豪快に海親方は笑い出し作業が始まった。
10階建て予定のビルは既に図太い鉄筋が組み上がっており、私と文学さんは海鮮組の職人さん達へ下から階段を使って様々な資材を運ぶ事となった。
頼まれた資材を一段一段のぼり、職人さん達へ届けビル前の資材置き場に戻りまた一段一段のぼる。腰に力を入れ豚鼻を大きく開き酸素を送り込む。
まだ寒い季節にも関わらず作業着が暑苦しくなってくる。落とさない様に慎重に一段一段資材を担いでのぼる…
海親方は「ゆっくりでいい 自分の運べる量でいいから確実に上にもってこい」と私と文学さんに気遣ってくれた。
昼休みには二人ともグッタリしてしまい配られる特大のお弁当を食べる食欲が私には沸いてこなかった。
「花、おめぇ飯食わねぇともたねぇぞ」と職人達にからかわれたりしながら私はお弁当を食べ始めた。 「おいっ!文学!おめぇ隅っこいくんじゃねぇ! こっち来い!」と海親方が隅でお弁当を食べていた文学さんを呼んだ。
332 :華 :2007/02/11(日) 20:37:51 ID:LUvLb6Bf
「飯ってのはよ!弁当であれみんなで食うのがうめぇんだよっ!覚えとけ」そう笑いながら文学さんの背中にバンッと叩くと「ごふっ」っと文学さんがむせる。
そんな光景を見て職人達はゲラゲラ笑い出した。
すると一人の職人さんが「文学!おめぇバイク乗るんだな 俺も昔は乗ってたんだよ」と言い出し、周りの職人達も嬉しそうにバイクについて語り出した。
W1やメグロ、ドリームナナハン、古い車種では赤トンボ(YA-1)の名前が飛び出していた。
「そういや、花はなんでウチ来たんだ?」と一人の職人が質問してきた。私は迷わず「バイクの免許とバイクのお金を貯めるために来ました」と言うと更にバイク話は盛り上がった。
バイクって不思議だと思った。今日初めて会う人達なのにバイク話でこうも盛り上がるとは思わなかった。そして嬉しさで胸がドキドキしていた。
そんな楽しい昼休みも終え午後の作業が始まった。資材を一段一段のぼり背中からは背脂がツゥーっと流れる。ググッと腰に力を入れ太股をあげる。
階段を踏み外さないように慎重に息を殺しながら一段一段とのぼる。 体力に自身のある私でもさすがにこの作業はきつかった。文学さんに到ってはフラフラと危なげながらも下唇を噛みながら重い資材を担いで一段一段のぼっていた。
18時になり今日の作業が終わる。汗びっしょりになった私達は糸が切れた様にその場に座り込んだ。だが充実感が私達の顔を緩めていた。
「花、明日も頑張ろう!」と文学さんが励ます。私も「明日も頑張りましょう!」と励ましあった。
厳しい肉体労働ではあったが昼休みのバイク談議や優しい職人さん達に囲まれながら私達は頑張って仕事を続ける事が出来ていた。
そんな初日から一週間も過ぎた日に「かもめビル建設現場」で事件が起きた。 3月末、桜のつぼみはまだ開いてはいなかった。
339 :華 :2007/02/12(月) 11:36:34 ID:RiW7jRng
毎日汗をかき、家に帰ってはバイク雑誌に噛り付いて眠る生活が続いていた。今までは家に帰るとお菓子に噛り付いていた生活とは随分変わっていた。
そんな生活を続けるにつれ、体のコレステロールと無駄な脂肪が徐々に落ち始めていた。
過酷な肉体労働生活も一週間が過ぎていた。
新社屋建設に出向いていた鮫肌という名の25,6歳位の男が海親方と話し込んでいた。困った表情を浮かべながら職人達へ事を伝えるべく一旦休憩となった。
海親方の話によると新社屋突貫工事が思う様に進んでおらず、もう数日ほど重機類を新社屋現場で使う事になる。という内容だった。
「かもめビル」建設は少数精鋭の言葉通り順調に進んでおり海親方は重機類の件は問題無いと鮫肌という男に言った。
「おっし、一服いれるかっ!」と海親方が言うと職人達は座り出しタバコに火をつけ始めた。なんらいつもと変わらない一服休憩だった。
しかし休憩が終わろうかという時に事件は起こった。私は作業が始まる前にと御手洗いから戻ると先程の鮫肌という男と文学さんが口論になっていた。
340 :華 :2007/02/12(月) 11:37:30 ID:RiW7jRng
「はっ! 東大?文学? ここで何の役に立つんだよっ!」鮫肌は腕を組みながら言い放っていた。文学さんは悔しそうにグッと堪えていた。
海親方や職人達はジッとその様子を伺っていた。 私は止めないの?と思っていた。
「大体文学で飯喰えるんか? 宮沢賢治だか知らんが銀河鉄道読んでなんになる くだらねぇ」と言い放つと職人の一人が「鮫!おめぇ言いすぎだよ」そう鮫肌に言い聞かせた。
その瞬間「うぉぉぉぉぉぉ」という声と共に文学さんが鮫肌に体当たりをする。職人達は「おぉ!やれやれ やっちまいなぁ」と何やら楽しそうに観戦し始めた。
鮫肌は咄嗟の出来事に不意をうたれ床に叩きつけられる。「み、宮沢賢治をぉぉぉぉ」と叫びながら鮫肌の顔を殴り始めた。
「こんのクソジャリィィ」と立ち上がり文学さんの腹に一発のボディーを入れると文学さんはくの字になり床に倒れた。「おめぇの知る文学ってのはそんなもんか」鮫肌は捨て台詞を吐き出した。
「鮫肌ぁぁぁぁ!!!」という声を叫びながら文学さんは鮫肌に蹴りをかまし、鮫肌は憤怒し転がっていた棒切れを手に取り始めた。
「バカヤロォォォ!!!」と太い声が響いた。
海親方がそう叫ぶと二人とも固まってしまった。二人の元へゆっくり近づき右手で文学さんを、左手で鮫肌の胸ぐらを掴み上げたまま吊るし上げた。
壮絶な光景だった。文学さんはともかく鮫肌という男は海鮮組の職人達と同じく肥大した筋骨隆々な男にも関わらず意図も簡単に海親方は腕一本で吊るし上げてしまった…
そして吊るし上げたまま海親方は二人にこう言った。
341 :華 :2007/02/12(月) 11:38:10 ID:RiW7jRng
「文学!おめぇ自分に大義名分ある喧嘩に足使うなんざ無粋な真似すんじゃねぇ!」まずは文学さんを叱り出した。
「鮫!てめぇも喧嘩でモノ使おうとすんじゃねぇ!ちったぁ大人になれ!」と鮫肌に言い聞かせた。
二人は苦しそうに「すみません…」と言うと海親方は二人を降ろしバスッっと一人づつボディを入れ二人は海親方の腕に絡むように気を失った。
「貝塚ぁっ!貝塚いるか?」そう海親方は言うと職人達は「おぉ!出るか」と嬉しそうに様子を眺めていた。
「先程から後ろに居ます」そう言い出したのはツンと尖った眼鏡の事務員の女性だった。 「おぅ!こいつら寝かせとけ」そう言うと女性は細い華奢な腕で二人を担いで事務所へとスタスタ歩いていった。
「わぁははははは さすが貝ちゃん!見事な物干し竿だ!」と職人達はドッと笑い出す。驚いた…事務員といえど海鮮組は力が全てなのか…そう思わされた。
その後二人は揃って海親方の元へ謝りに来て鮫肌は新社屋現場へ、文学さんは持ち場へ戻った。
その日の仕事を終え、私は建設中のビル屋上へ上って夕日を何考えることなく眺めていた。沈みかけている太陽を見ながら私は海親方の先程の采配を思い返していた。
海親方から「何か」を教えられた感じがした。乱暴ではあるが一本筋の入った男の姿を見て一つの正義を見せ付けられた感じがした。そして色んな事を考え始めてしまった。
無言の失恋した。友人と再会した。異形の者に助けられた。そして決意を固めた夜の事。退屈だった高校二年生。気弱になった私の心。そんな事を考えていた。
「おぅ!花 まだ帰らないんか?」ポンっと肩に手を置いて海親方が現れた。「なんだ?悩みでもあんか?」そう海親方は言う。
私は首を左右に振る。「そうか それならいいけどな 夕日見てるのか?」と聞いてくる海親方に私は首を縦にコクンと下げた。
突然海親方は言いだした。
342 :華 :2007/02/12(月) 11:39:32 ID:RiW7jRng
「夕日ってのは今のお前だな。」私は何の事だかわからず海親方の顔を見上げた。
「太陽ってのは昇ったり沈んだり輝いたり色んな顔を持ってやがる。」そう言いながら私の頭にポンと手を置き、優しく撫で始め「暗くなる前に帰りな」そう言い残して階段を下りていった。
私は再び沈みかけている夕日を見ると、豚頬に弧を書くように一粒の涙が流れていた。
370 :華 :2007/02/13(火) 20:29:28 ID:7u34GKU4
明日から高校三年の新学期が始まる。いつしかラジオに流れていた桜開花情報は見事にハズレ、この日は桜が満開である。
春休み最後、そして海鮮組最後のアルバイトとなった。少し寂しい気持ちもあったが何事も無くアルバイトを終えて私と文学さんは「かもめビル」前のプレハブに呼ばれた。
「かもめビル」の現場で残す作業は内装だけで海鮮組とは別の内装屋が受け持ち完成となる。つまりこの現場での海鮮組は全ての作業を終える事が出来た次第だ。
私達二人はプレハブに入り、海親方から給料を頂いた。「ありがとうございます。」と二人は声を揃えて海親方にお辞儀した。「おぅ お疲れさんな」と海親方は優しい目で言った。
初めて手にした給料袋に感無量の気持ちが湧いてきた。働く事の喜びを初めて味わえた瞬間だった。
「どうだい。文学、おめぇさえよけりゃぁまだウチで働くか?突貫じゃねぇから日給は下がるがどうだ?」と海親方が文学さんに提案してきた。無論あの一件以来の文学さんは海親方を心底尊敬していた。
「は、はい!お、お願いします!」文学さんは嬉しそうに答えた。
「おい、花 おめぇ進路決めてんのか?」と聞いてきたが、私はまだ進路を決めて無く悩みながら「いえ、まだ決めてません…」そう答えた。
「俺はな、三流だが大学出てんだよ。おめぇも大学行け。きっと人生の大きな糧となる。」海親方が私に優しく言う。
「で、でも…私…勉強は普通位だし今から受験勉強は難しいんじゃ…」おどろおどろ答えると「たった今、ここにいい教師が出来たじゃねぇか!なぁ!文学」そう海親方が文学さんへ顔に似合わないウィンクをパチッと飛ばした。
「ふふふ いいですよ 僕でよければ勉強教えますよ。」そう言いながら海親方にウィンクで返した。そんな文学さんの仕草を見て海親方は豪快に笑い出す。
371 :華 :2007/02/13(火) 20:30:06 ID:7u34GKU4
「それで 花、おめぇまだバイクのお金貯まってねぇだろ?休みの時はウチにバイト来てもいいぞ。」と話は進んでいった。なんだか嬉しくなってきた。
更に嬉しかったのは文学さんが合宿までの受験勉強の合間に海鮮組敷地内であればゼファーでバイクの乗り方まで教えてくれると言う。
もう海鮮組とはお別れとなってしまうと思った私は嬉しくなり豚っ面がクシャクシャになった。
私の高校3年生の生活は、平日は文学さんの仕事が終わり18時〜22時まで海鮮組事務所で受験勉強。そして息抜きは文学さんによるバイク教習。土日は海鮮組でアルバイトをする生活へとなる。
海鮮組でアルバイトを続ける事により高校3年生の春には私の体は大きく変化を遂げる事になる。
セルライトが取り除かれ引き締まった太股は、私の愛機を押さえ込む強靭なニーグリップに、過酷な資材運びで鍛えられた足首はバンク中の揺ぎ無い安定力となり、
体脂肪が落ちきり、磨き上げられた上半身は次々と現るライバル達と競り合うライディングフォームの土台となる。
そして最大の財産は夏の合宿までに160cmの身長が165cmへと徐々に伸び、足付きの面で大いに救われる事となる。体重については高校卒業には今の体重から15sダウンした。その頃の体重はとても公表出来ない。
「おっし!話は決まった!貝塚ぁ!支度出来てるかぁ?」事務員の貝塚さんへ言うと「いつでも結構です」そう答えながらツンと尖った眼鏡を光らせた。
「行くか!」私達の背中をバ〜ンと軽く叩き外に出る海親方。文学さんは貝塚さんに「ど、何処へ行くんですか?」と慌てて聞くと「花見よ。海鮮組の花見は凄くてよ」と笑いながら貝塚さんも嬉しそうに外に飛び出た。
372 :華 :2007/02/13(火) 20:31:09 ID:7u34GKU4
公園に着くと既に沢山の人でごった返していた。桜が満開と言う事もあり近隣に住む人々が宴会を始めていた。桜の広場中央にある大きな桜の木の元に筋骨隆々な男達が所狭しと集い、花見の場所を確保していた。
新社屋へ出向いていた若い衆だった。遠くから見ると異様な光景でグフッと笑いが出てくる。
「お疲れ様ですっ!!!」と公園の端から端まで響くような声で若い衆は海親方に挨拶をする。手を上げながら「おぅ!おめぇらも新社屋、お疲れな」そういいながらドスンと座りだした。
簡単な挨拶の後、海鮮組の花見は幕を開ける。勢いよく詰まれたビールケースは直に空になり、有り得ない量の食事を海鮮組はガツガツ喰らう。極めつけは樽酒が空になり幾つかコロコロ転がり出す始末。
そんな転がる酒樽を貝塚さんがひょいひょい積み上げると職人達は笑い出す。
仕事っぷりも豪快だが海鮮組は呑みっぷり、喰いっぷりも豪快だった。 酷いのは海親方で、気分良く酔い始めると唄を歌い出す。コレがもの凄い音痴で職人達はゲラゲラ笑う。
先日喧嘩をした文学さんと鮫肌さんも肩を組んで和気藹々と宴を楽しんでいた。
楽しい宴は桜が舞う夜空の下でいつまでも続いた… そして私は明日からいよいよ高校3年生になる。
早川さんから「バイク屋オープンしてた」とポケベルにメッセージが入っていた。