三河屋4-3

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204 名前:774RR :2006/02/02(木) 00:55:48 ID:GcVDrb14
「今日からは俺がトップになるんだ!」中島は固く誓った。
落ち着くために暗くされたガレージ奥に慣れた目に、観客席の大歓声に溢れた鈴
鹿のコースは白く輝くスターティンググリッドは白く輝く金属の表面にも似た、
銀色一色の球体に見えた。
このレースでトップをとれば二点差のカツオを逆転し、日本人初のWGPチャンピオン
を母国で奪いとることができるのだ。
ホンダで125から順調にステップアップしWGPまで登りつめたカツオに比べれば
ドカティに乗る中島は日本では人気の面では格段に劣る。しかし、中島にも中島
なりの意地がある。カツオのバイク専用のテストライダーとして過ごした3年間
を叩き返す絶好のチャンスだ。
シーズンの開幕直前にセカンドドライバーの負傷により空いたドカティのシート
の話が舞い込んできたとき、中島は迷わず決心した。一応ホンダに対しての礼儀は
尽くしたが、カツオの引き止める言葉などほとんど耳に入ってはいなかった。
「成り上がりたい」という焦げるような焦燥感をハッキリと自覚した後は自分でも
驚くほどの勢いだった。スポンサーの資金を得るために、カツオのスポンサーを
していた不動産会社の娘を犯すようにして自分のものにさえした。
開幕戦で「来年は花沢の名前で走るかもしれないぜ。」と言った冗談も、二年後の
シーズンには現実のものとなっているだろう。


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205 名前:774RR :2006/02/02(木) 01:00:00 ID:GcVDrb14
思えば中島の人生は今までずっとカツオの二番手だった。親友というぬるま湯のような
関係のため堂々と争うこともできず、胸の奥のわだかまりをずっと吐き出せぬ
ままにここまで来てしまったのだった。
カツオとは小学校以来の友人だが、快活だったカツオに対して中島はあくまでも
「カツオの友人」だった。バイクは近所の酒屋のお兄さんのカブをカツオが無断
で乗り回していた時が最初だ。その後カツオに誘われて「女の子を後ろに乗せる
ために」中型免許を取得し、漫画の影響で奥多摩に連れていかれ、カツオに好意を
寄せていた花沢という不動産屋の娘を騙して金を搾り取って鈴鹿の8耐に出場。
本格的にレーサーの道に進んだのだった。
「そういや女もカツオの二番手だったな。」思い出すたびに浮かぶ苦い気分を
押し殺して、中島は忘れたい相手を目で追う。きっと彼女はカツオのピットに
居るのだろう。
8耐の時に知り合ったTV屋から「レーサー養成ドキュメント」に参加したおかげで
レーサーになれたわけだが、番組ではカツオの敵役、番組終了後ホンダに迎えられた
カツオに比べ、中島はカツオの口利きで開発のレーサーに滑り込んだだけだった。


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207 名前:774RR :2006/02/02(木) 01:26:35 ID:GcVDrb14
「今日からは俺がトップになるんだ!」繰り返し彼は誓う。
日本で人気絶頂のカツオをここ鈴鹿の最終戦で逆転しチャンピオンになったら
さぞかし痛快だろう。
開幕当初は今ひとつの戦闘力だったドカティをここまで押し上げたのは、
開発から乗り続けてきた中島の開発者としての、そしてライダーとしての
能力に他ならないのだ。

フロントローにたたずむ中島のバイクの後ろの列にTOSHIBAのスポンサー名が
大きく書かれたカツオのバイクが並んでいる。既にカツオはバイクにまたがり、
少々堅い笑顔ではあるが相変わらずの「なかじまぁ〜」という挨拶をしてきた。
中島は不自然にならぬように笑顔をかえし、カツオの横に立つカオリを無視して
自分のバイクに向かった。瞬間何かを言いたそうな瞳をしたカオリも、顔の向きを
変えぬままにカツオが飲むゲータレードを持ち続けていた。

スターティンググリッドの人並がサっと引きはじめた。
中島はいつもの癖で右手でドゥカティのタンクを軽く二度たたき、スロットルを
握りなおしてスタートの合図を待った。
赤のシグナルが灯った瞬間、1コーナーの奥でユラっと揺れた陽炎がなぜか自分を
呼んでいるような気がした。あとコンマ何秒かでレースが始まるまでがとても長い
時間に中島には感じられた。
エンジン音が遠くにそびえる山にまで響く爆音となり。シグナルが青に変わった。
バイクに乗る世界中の男達の中の一番を決める単純で複雑で興奮を誘う競争が始まった。


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