Part3-4 カツオと中島(バイト編)
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115 :774RR:2006/07/22(土) 23:58:16 ID:8OVCivdM
顎の髭が満足に生えなくなってどれだけ足っただろう
ふと思考をめぐらせた。―――四年前―――
僕はピザの配達スタッフで彼も配達スタッフで、
あ、彼って言うのは小学校からの親友である磯野カツヲ
お互い同じピザ屋さんにバイトとして同じ日に入店した。
彼はとてもバイクが好きで僕もとてもバイクが好きだった。
彼は僕にバイクの魅力を伝え、僕が原付の免許を取るのを待ってから
面接に望んだ。
お互いが無意識にライバル意識をしていたおかげで
バイトの仕事内容、配達圏内のタウンマップ、ちょっとコツのいるエンジン始動の儀式
等を効率よく覚えて言った。
お互いがお互いを高め合える。素敵な親友関係だな!と店長はピザ生地を器用に、
伸ばしながらガッハッハと豪快に笑いながら言った。
そんなこと無いですよ〜と僕らは声を合わせて言った。
店長はまた豪快な笑い声を上げた。僕らは顔を見合わせた。
120 :115:2006/07/23(日) 00:15:52 ID:S6HwH61o
バイト開始から二ヶ月めに突入した最初の日曜日
出勤一発目の配達の途中で僕は空を舞っていた。
配達先が自分の家に近かったということもあって油断していたのであろう。
気がついたら僕は車の左折に巻き込まれ、車の真横に直角にぶち当たる形となり
空を舞った。当たった瞬間、景色がスローモーションになり体が捻られる感覚がゆっくりと
脊椎から脳に伝わり空を舞った。初めての飛行がこんな体験かよ――
咄嗟に口走ったと思う。そして近づいてくる地面をスローモーションで眺めながら
舌打ちもしたと思う。
スローモーションで動く世界の印象が強すぎておぼろげな記憶しか思い出せない。
僕は顎から地面にたたきつけられたようだ。
全身を鈍痛が走る。
すばやくすくっと立ち上がる。
なぜかバイクに駆け寄りエンジンの再始動を試みていた。
かからないエンジン、絶望
急速に後頭部から熱が引いていく感じがした。
熱が引いていったせいだろうか。
店に電話だ!幸いポケットの携帯電話は壊れてはいなかった。
店長!事故りました!
開口一番にそう伝えた。
店長は、ドコでだ?体は?などといろんなことを聞いてきた。
そんなやり取りをしているうちに僕は救急車に乗せられ
首に厳ついコルセットを巻かれ病院へ搬送された。
記憶はそこで途切れている。
磯野曰く、死んだかと思った。だそうだ。彼は意識の途絶えた僕に向かって
バイクが好きならバイクで死んだらダメなんだ!そう呼びかけていたといっていた。
122 :115:2006/07/23(日) 01:18:07 ID:S6HwH61o
幸か不幸か僕の顎は三針縫っただけですんだ。
顎の髭はもう、満足に生えない。
一月のオヤスミをバイト先から出された。
お前の分まで俺ががんばってやるよ!磯野はそういっていた。
しかしそんな磯野も一週間しないうちに事故ってしまった。
磯野の怪我は怪我といえるほどのものではなくほとんど無傷。
バイクはクシャクシャだったが・・・お互い一月のオヤスミ
一月のオヤスミからバイトに復帰すると車庫にはプレスカブが二台とまっていた。
店長は、お前らのおかげで配達バイクがカブにレベルアップしたぜ!と
言っていた。
メンテナンスの行き届き、セッティングがばっちり出ていた二台のカブは
復帰後の僕ら二人へのプレゼントのように思えた。
後にこのカブ二台が僕と磯野のバトルに遣われることはまだ知る由もない。
126 :115:2006/07/23(日) 08:45:19 ID:S6HwH61o
彼はNSR50に乗っていた。パワーバンドに入ったときの加速がたまらない。
そういっていた。僕はモンキーに乗っていた。小さい車体で懸命に走る姿が愛らしい。
店長に、病院は毎日通ったほうがいい。といわれていた。
僕はその言いつけを守り毎日病院へ通っていた。
ある日、店長が、書類を書け。と言った。
僕はその書類に目を通し、判をついて提出した。
またある日、店長が、保険金が下りたぞ〜といって明細を見せてくれた。
その額なんと15万。顎を縫っただけはあるな、と自分でその金額と
顎を縫った時の痛みの釣り合いが取れているな。と妙に納得していた。
事故から三月ほど経ったであろうか。季節は入梅ごろに差し掛かっていた。
その三月の間僕は稽古をしていた。もちろんバイクの稽古だ。
近所の空き地にモンキーを持って行き滑りやすい路面での車体のコントロール。
さらに、閉店後のスーパーの駐車場に深夜忍び込み空き缶をパイロンに見立てた
ジムカーナもやった。
成果が出たのであろう、何とかハングオンからヒザすりまで出来るようになった。
何故このような稽古をしていたかというと
カブが二台あるからだ。
そう、僕は来るべき試合に備えていた。
彼からの提案であった。
145 :115:2006/07/23(日) 21:26:13 ID:S6HwH61o
せっかく同じバイクが二台あるんだ。イコールコンディション
ってことで競争でもしてみないか?
休憩中に二人で店の裏側で煙草を吸っていたときのこと。
僕は二つ返事で了承した。
お互い配達のときにホームセンターでカブの合鍵を作ってくる。
コレでOKだ。お互い無事にその作戦を成功させ、二人そろってにんまりした。
そして僕はそれから三月の間モンキーで稽古をしていた。
最初は良く転んだ。空き地でスリップダウンし
駐車場でブレーキの使い方を間違え後輪が派手に滑り出しハイサイドを喰らったりもした。
(といっても非常に緩慢な動作でのハイサイドだ)
来るべき試合の日、深夜にお店からカブを引っ張り出し、峠へと向かう。
勝負は下り一本、煙草の空き箱が地面に落ちるのと同時にスタートした。
両車軽く前輪を浮かせてのスタート
磯野が絶妙なタイミングで変速していくのが分り少しずつ離されていった。
(僕はそのとき引張り気味の変速をしていた)
第一コーナーでホールショットを奪ったのは磯野
しかし僕も負けてはいない。差は一車身
コーナリングでは負けていない気もする。
かかとでシーソーペダルを踏み込みシフトダウン。
踏んだままアクセルをあおりスムーズなシフトダウンをし
立ち上がりもスムーズに決める。
しかし、初めて走るコースだ。磯野はすいすいと車体を右へ左へ
ひらひらと舞踊らさせスムーズにコーナーをクリアしていく。
146 :115:2006/07/23(日) 21:33:23 ID:S6HwH61o
僕はコースのつながりを知らない。
ドコをどう走れば次のコーナーへ華麗につながっていくか分らない。
僕は一杯一杯で走っていた。
五車身を離されてしまった。
コーナーを抜けるとその先にあったのはストレートだった
僕はここぞたばかりにアクセルを全開にし
アクセルを戻さずにトップの三速にいれた。
これが絶妙なタイミングあったのだろう。
心地よい加速で磯野の車体に近づいていく。
もう少しでならべる!
僕はアクセルを緩めなかった。
そして並ぶ。
向こうも最高速でこちらも最高速。
見事に同じスピードで併走する二台
そして街灯に照らされて現れた右コーナー
僕はコーナーの入り口をにらむ。
僕はアウトから磯野はインから進入する。
しかしアウトには落ち葉が積もっていた。
前後輪が落ち葉に乗り上げている。
ゆっくりと前後輪が流れ出す。
カウンターを当てるがもう遅い。
景色が左へゆっくりと流れ始めた。
そしてゆっくりと二度目のスローモーションがやってきた。
今度は右肩をしたたか打った。
コーナーを先に抜けた磯野がブレーキングターンをした後戻ってきた。
147 :115:2006/07/23(日) 21:53:36 ID:S6HwH61o
死んだか?彼はメットのシールドを跳ね上げながら言った。
うめきながら僕は立ち上がり、彼にサムズアップをした。
彼は、また死んだかと思った。といった。
僕は「そう何度も死ねるか」と返した。
「あーあ、やばいよ。レッグシールド割れちまった」
「カブのトレードマークだろう?それ」
彼はカブにスタンドを掛けガードレールに腰掛けた。
胸ポケットから煙草を取り出し僕に一本よこすしぐさをする。
僕は無言で煙草を受け取り彼から差し出されたライターの火で火をつけた。
磯野は思い出したように言った。
「昔、三河屋のカブぱくって良く空き地で遊んだよな」
「イキナリ何を言い出すんだよ。」
「だから、サブちゃんからカブのレッグシールドを借りてその間に部品を調達してこればいいんだよ」
「でも、それって僕たちの無断拝借がばれることになるんじゃないか?」
磯野は首を捻ってう〜んと考え始めた。
「明日の配達で朝一からこけた事にしよう」
「だから、破片を集めて裏側からガムテープで止めるんだ」
深夜の峠で破片を拾う僕ら二人、次の日上手くことが運んだかというと
そうではなかった。二人してたんこぶを同じ位置に作ったことは言うまでもない。
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