Part2-9 ラーメン"も"大好き 小池譚
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468 :774RR:2006/08/20(日) 15:26:53 ID:gBcO+mPr
彼は間借りしている隣家のガレージから、まばゆいほどのオレンジに染まったOW-01を引っ張り出す。
今となってはいささか古くさいかも知れないが、それでも彼はこのマシンが好きだった。
打倒VFRの志に惹かれたのか。いや、敵は何者でもかまわない。
ただ単にその上のその上を目指すという単純なことに、彼は惹かれていたのだ。
彼の革ツナギの背中にはヒヨコの絵と「I'm Chicken!」の文字。彼なりのちょっとした皮肉…ではない。
初めてツナギをつくったときに入れたロゴ。
「このデザインにしようと決めたとき、『もっといい図柄もあるだろうに』って言われたんですよ。
でもね、僕は初心者だし小心者だからこれが良かったんです。」
彼は照れ笑いしながらいっていた。しかしながら、そのヒヨコを捕らえた獣は数えるほど。
それもほとんどはもう何年も前の話だ。彼もツナギは何着も着古したが、ヒヨコの絵とこの文字だけは
どういうわけか気に入ったらしい。
469 :774RR:2006/08/20(日) 15:28:25 ID:gBcO+mPr
彼の名は鈴木。いつもは丸めがねにモジャモジャ頭、そして和服の出で立ちである。
いかにもうだつの上がらなさそうなオッサン然とした男。
が、それは表向きの話。今夜もこれまたまぶしいオレンジ色ベースのツナギに身を納める。
が、夜の暗がりの中では幻のようにぼうっと浮かんで見えるだけ。
「今日もよろしく。五代目。」
暖機の終わった愛機に跨る前に、彼はいつも背中をポンと叩く。すするように息を吸い、ふうっと吐き出す。
路地を抜けて、テールライトが夜の目白通りへと消えていく。
彼の名は鈴木。
見ればラーメンを啜っている「小池さん」と言った方が通りがいいだろうか。
471 :ラーメン"も"大好き 小池譚 :2006/08/21(月) 00:03:36 ID:HlUCwZuX
池袋線をすすみ、竹橋、神田橋、江戸橋、京橋、汐留、浜崎橋と進む。
「そうだ、割り箸買っておかないとな…」
「塗り箸は滑るんだもんな…」
彼の好きなラーメンの麺のように、または髪の毛のように、
やや混み合った、車というスープの中を絡むように抜けていく。
そうして、虹橋を越え、辰巳を越え、深川線を進み、箱崎でUターン。芝浦PAを目指す。
彼のいつものやり口だ。
「9時40分…今日もか…」
芝浦でラーメンを食べるのが彼の今のところの目標である。
が、間に合ったことはまだない。
残業のせいか、そもそも彼は会社勤めなのか、誰も知らないのだが、
芝浦のラーメンにはありついたことがない。
「日曜にいらして下されば、ごちそうしますよ」
そう言われたこともあるが、日曜には出ないのだそうだ。
彼の謎の一つである。
そして、車が通るたびに揺れる休憩室の片隅で、砂糖入りのブラックコーヒーをすする。
これまた彼のいつものやり口なのだ。
478 :ラーメン"も"大好き 小池譚 :2006/08/21(月) 23:17:49 ID:HlUCwZuX
「ハァー。見晴らしのいいところで食うラーメンはうまいねい」
筑波に来てまでラーメンを食う小池さん。
関東平野にぽつんとそびえる筑波からの景色はまさに下界を見下ろす。
周りはどこを見ても平地である。地球の丸みが分かるここを小池さんは気に入っていた。
表筑波スカイラインは二輪通行禁止になって久しいが、
それでも別ルートでよくやってきてはラーメンをたしなむ。
標高877mの筑波では山頂でも沸点が低くならないのが魅力だ。
インスタント麺を麓のスーパーで調達し、お湯も調達する。
昔は次にコンビニへ寄って缶コーヒを調達していたが、最近はその必要もない。
缶コーヒーをわざわざコンビニで買っていたのはお湯を調達するためだ。
最近ではお湯を常備するスーパーも増えて助かる小池さん。
保温水筒とどんぶりは持参だ。リュックサックに入れて持ってくる。
リュックといってもナイロン製のそれではない。昔上京した頃に買った帆布製のものだ。
長いこと使っているので穴も開くが、それでも目立たぬように接ぎが当ててある。
ラーメンを食べ終えると霞ヶ浦方面へ進む。
故郷の長崎にはだだっ広い平野もなければ、水平線が見える大きな湖もない。
といっても、目的はアイスクリームだ。
小池さんが楽しみにしているアイスクリーム屋さんがあるのだ。
昔は出島村といった場所にそれはある。彼はビール味のアイスがお好みだ。
一つ食べ、3つ買ってお持ち帰り用にドライアイスももらう。2時間分だ。
アイスも大好き小池さん。
くどいようだが、彼の本名は鈴木である。
497 :ラーメン"も"大好き 小池譚 :2006/08/24(木) 20:35:23 ID:IsU4TWef
[5th bowl of ramen]
コオオオオオォォォォォァァァァァァァァァァァァ
明け方の京葉道路に響く雄叫び。
普通に走れば何ということのないいつもの道路も、3FVがちょっとはしゃぐとたちまち表情を変える。
ちょっとしたバンプで宙に浮く。まるでスキーの滑降競技のようだ。
違うのはこっちは平坦路だということ。スピードはこっちの方が倍も速いが。
鬼高で一旦バイクから降りる。休憩にしてもちょっと早い。
「早く着きすぎてもしょうがないもんな…」
いつもなら真っ先にフードコーナーに向かう小池さん。でも、今日は左の胸ポケットから
JokerとABITAXの携帯灰皿を取り出しながら灰皿のもとへ向かう。
今日はこれから向かうところがある。といっても単にメシを食いに行くだけ。
特別な用事なんかじゃない。
しかしながら、5年も前に販売終了になったはずなのに…Joker...
持っている人は持っているものだ。一体どれだけ買い込んだのだろう。
でも、ラーメンばかり食べているのはタバコを買い込んだせいではない。断じて。
498 :ラーメン"も"大好き 小池譚 :2006/08/24(木) 20:36:07 ID:IsU4TWef
[6th bowl of ramen]
「さて、もういいかな」
3FVに火がはいる。YZFの全弟とでもいうべきそのアルミの固まりもはしゃぎたくて
うずうずしているかのようだ。ちょっかいを出すかのように1度、2度、軽くスロットルを当ててやる。
目指すは成田公設卸売市場。
給料日前に寿司を食いに行くのが隠された(?)小池さんの楽しみなのだ。
給料が出てから行くのではなく、給料日寸前の一番大変なときに寿司を食いに行く。
この優越感がたまらない。そう小池さんは教えてくれた。
成田までだったら、taking a rideは文字通り「朝飯前」だった。
M-65のフロントジップを上げると、いくぶん明るくなろうかという京葉道路へと流れていく。
いつもの深夜に身を包む革ツナギとも、いつもの和服姿ともまた違う、
皆が知る小池さんらしからぬ格好だ。
しかしながらこの人、この服装で超高速クルージング。只者ではない。
普段の和服姿も訳あって世間から身を隠すためのことなのかも知れないと思うくらいだ。
だが、普通和服の方が目立つのは教えないでおいてある。
「さーて、今日はいくつ赤身が食えるかな。」
ヘルメットの中で話す小池さん。船橋ICにさしかかり、目的地までは40km弱。
寿司のことで頭がいっぱいの彼には当然、ぴったりとマークするように
東関道を東進する機影に気づくことはなかった。
500 :ラーメン"も"大好き 小池譚 :2006/08/24(木) 20:41:17 ID:IsU4TWef
[7th bowl of ramen]
宮野木JTCにはすぐ着いた。料金所でお金を払い、東関道へ合流する。
大都市と大都市をつなぐわけでもないのに片側三車線。
ほとんど渋滞を知らない東関道、結構お気に入りだ。
加速して本線へと思ったその一瞬、小池さんの右側の空間を鋭く切り裂くものがあった。
条件反射的に右手首が返る。寿司のことなど吹っ飛ぶ。
「ロクエフ…か!? …まあいいや、おなかすいてるし。早く着きすぎてもアレだし。」
そう思い直した小池さん。寿司のこと吹っ飛んでないよ小池さん。
しかしながら、初速の差があったはずなのに、みるみるその距離は縮んでいく。
なぜ?… 相手は右手を休めている?
そんな相手には全く構うことない小池さん。マイペースに進み、すぅっと抜き去る…
かに思われた。
「高速道路で無茶なスピード出す人もいたものだねえ」
小池さん、自分のことは棚に上げて急がなくてもいいのに寿司屋へ急ぐ。
いや、本人は全く急いではいないのだが、客観的には急いでいる速度だった。
そして再加速して入ったドラフティングからなぜか出てこないロクエフ。
全く意に介さない小池さん。ぴったりと追跡する相手。何を考えているのか。
端から見れば高速バトルそのものだった。
「あまりスピード出すと危ないよ…」
ヘルメットの中でつぶやく小池さん。この際はっきり言いますが、あなたもです。
ものの十数分で[富里 1km]の看板が見えた。アクセルを緩める小池さん。目的地はもうすぐだ。
寿司にワクテカしながら左に分岐していく横を、ロクエフは何事もなかったのように、通り過ぎていった。
700 :ラーメン"も"大好き 小池譚 :2006/09/11(月) 13:18:44 ID:4ZDwlNAm
[7th bowl of ramen]
「あー。食ったねい。1ヶ月分は食った感じだねい。」
赤身を食いまくって最後に中トロ2カンで締める、これが小池さんのスタイルだ。
別のタネも食べるが、マグロを食うときはマグロオンリー。別にこだわっているわけではないらしい。
単に食べたいものを食べるとそうなるだけだと言っていた。
世間一般では、それをこだわりという。
帰りは足早に…マイペースで…いつもよりゆっくりと…コンクリートの分量が多い街へと向かう。
いつもよりゆっくりと、といっても小池さんのゆっくりなのであまり当てにはならないが。
家の隣にある貸しガレージに愛機を納め、家に帰る。
と、視界から走り去る一台のバイク。
「これからお出かけなのかな」
「はて、どこかで見たような気もしないこともない…」
小池さんはずいぶんおっとりさんなのだった。
701 :ラーメン"も"大好き 小池譚 :2006/09/11(月) 13:19:48 ID:4ZDwlNAm
[8th bowl of ramen]
仕事の都合で茨城まで出かけた小池さん。帰りはわざわざ八潮から首都高に上がります。
そこまで下道で来るなら、はじめから高速にするか、ずっと下道でいいじゃないかと思いますが、
本人いわく、
「安いし信号ないから」
と至ってあっけらかん。
小池さんが茨城方面から都心に来るときに向島線をわざわざ使うには理由がある。
自宅に帰るならC2を使った方が明らかに快適なのに。
駒形PA。
駒形入口跡を改修したそのPAはPAというには非常に狭い。普通車のスペースが2。障害者スペースが1。
大型車が1。あとバイク用。非常駐車帯に毛が生えた程度の広さしかない。
普通車のスペースに至っては、1つは料金所だ。
それでもPA。タバコの自販機もあり、
自販機の質と量は他のPA並に揃っている。
小池さんはこぢんまりとした、あまり人気のないこのPAが好きだった。
ゴミ箱脇にある花壇の縁に立てば、鼻の先をかすめていく大型トラック。
まるで高速道路の車線上にいるようだ。
ベンチもフードコートもないが、どういうわけかここが好きだった。
ちなみに、自宅から一番近い南池袋は全く使わないそうだ。
理由は「二輪用の駐車スペースがないから」だそうである。
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