タラオ物語4
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801 名前:タラオ〜Acceleration of The Blood〜[] 投稿日:2007/01/17(水) 20:05:22 ID:+KpgOQih
「やっぱり、アナゴさんだな…」
独りごちて携帯を取り出し、「あ」行を検索する。
あの一日が過ぎ、数日後の休日。晴れて大型バイクの免許を取得した俺は、バイクの入手に動き始めた。
親父のハヤブサには、まだ乗らないと決めている。
今の俺が乗れるバイクじゃないと思うし、怖い。
雑誌や、インターネットで情報を集め、欲しいバイクはすでにほぼ決まっているが、
やはり、最後には本当に詳しい人の意見を聞きたかった。
アナゴさんには、親父が死んで以来、一度も連絡を取っていなかった。
気持ちのいいオジサンで好きな人だが、俺の知らない親父に、最も近かった人ということで気後れしていたのかもしれない。
802 名前:タラオ〜Acceleration of The Blood〜[] 投稿日:2007/01/17(水) 20:06:06 ID:+KpgOQih
「あ、もしもしアナゴさんですか?どうも、フグタタラオです」
「おっ!?おーおータラちゃんか〜。久しぶり!元気だったか?」
「はい、おかげさまで」
俺は、話の趣旨を説明した。
「ん〜そうだな。じゃあ、これから川崎の車庫にきなよ。ちょっと相談して、俺とフグタ君の行きつけだったバイク屋に行こう」
「わかりました、じゃあそうですね、1時半くらいでどうです?」
「OK・・・ところで、親父さんがなくなってから、お母さんの様子はどうだ?」
「ん〜まあ、一応元気にやってますよ。まあ…空元気ってやつかもしれないですが・・・」
「ああ、そうだろうな。まあ、時間が掛かるよ」
「そうですね・・・じゃあ、1時半に。」
「おう!」
803 名前:タラオ〜Acceleration of The Blood〜[] 投稿日:2007/01/17(水) 20:07:00 ID:+KpgOQih
母親の軽自動車を借りて、約束の場所に向かう。
約一月ぶりのプレハブ倉庫。アナゴさんはまだ来ていないようだ。
真昼間に見ると、あの夜に見た印象よりずいぶんと、いや遥かに・・・ボロい。
暗くて見えなかったシミや錆が目に付いて、見るからに汚い。こんな建物の中に、高級バイクが並んでいるなんで誰が予想するだろう。
カツオ兄さんからもらった鍵を使い中に入ると、例の3台が俺を迎えてくれた。
俺がバイクに乗れるようになったからか、この前よりもなんとなく親近感が沸くが、相変わらず親父のハヤブサからは魅惑的なオーラを感じた。
「親父のバイク」という感傷が起こさせる錯覚かもしれないが、俺にとっては紛れもない感覚だ。
3台とも後輪をレーシングスタンドにかけてある。
バイクは乗らないと腐るというが、アナゴさんが定期的にメンテしてくれているのだろう、見た目には新車同様に見える。
しばし3台の無言の編隊を眺めていると、外でクルマのドアの閉める音に気づいた。
エンジン音には気がつかなかったが、アナゴさんか?
「おーう、おまたせ」
久しぶりにみた、特徴的な唇。思わず微笑する。
804 名前:タラオ〜Acceleration of The Blood〜[] 投稿日:2007/01/17(水) 20:08:09 ID:+KpgOQih
「で、ハヤブサはまだ眠らせとくって話はわかったが、正直なところバイクにはいくら出せるんだい?」
やはりそこか・・・アナゴさんのクラウンマジェスタに乗りながら打ち合わせ。
「そうですね、頭金30、ローン25、保険やらなにやらの込みこみで70位でどうですかね?」
文系の学生には時間が有り余っているのだ。
「おう!そんだけいけりゃなんとかなるだろ!」「で、どんなのに乗りたいんだ?」
「大型のスポーツバイクです。一応考えているのは、VTRとかZ1000、FZ1、ちょっと古いところで9Rあたりですけど」
アナゴさんは唇をひん曲げながら、思案顔で言う。
「ん〜悪い選択じゃないし、玉数も少なくないから何とかなるかもしれないな。でも、一言、言わせてもらえりゃ「色」がねぇな」
「色、ですか…」
「そう、色だ。なんつうかさ。身一つで、命乗っけて走るわけだろ?全部ひっくるめて、痘痕も笑窪って感じで愛せなきゃほんとじゃねえと思うのよ。その点俺のカタナなんて・・・」
そうだ、この人は異常なほど筋金入りのカタナフリークだった…
「ま、そのあたりのこまいところは店についてから話そうぜ?」
相談した相手はホントにこれで正しかったのだろうか…
806 名前:タラオ〜Acceleration of The Blood〜[] 投稿日:2007/01/17(水) 20:10:40 ID:+KpgOQih
その店は環七沿いにあった。
幹線道路沿いでよく見かける、チェーン展開のバイク量販店ほどではないが、
そこそこ大きな間口で、店の前には原付が、奥のほうにはさまざまな大型バイクがズラリと並んでいた。
4大メーカーの看板の上に、『イナダモータース』の屋号。
「こんちはー!」
勝手知ったる他人の家。アナゴさんはずかずかと店内に入り、従業員に大きく声をかけた。
「あーアナゴさん。お久しぶりじゃないですか」
「おっす。お前さんと違って暇じゃないモンでね。」「そんな〜ウチだって結構忙しいんですからね!」
「ウソコケ!客なんかいねぇじゃねえか、一人、二人、ほら俺たちだけだ」「アナゴさんが来たから、皆さん逃げちゃったんですよ!」
「馬鹿言うんじゃねぇよ!」
・・・まるで掛け合い漫才・・・
「で、こちらは?」
俺のほうを伺う店員さん。どうやら店長さんのようだ。
「おう、彼が、フグタ君の息子さんのタラオ君だよ」
「ああ、フグタさんの…この度はご愁傷様です」
やっぱり、親父を知っているのか。
「この店も今じゃこんなになっちゃってるがな、昔はきったねえちっちゃい店だったんだぜ。でも技術だけは一流だった。」
「だった、じゃないですよ。今もです」「そうか?まあいいや、実はな・・・」
俺とアナゴさんは、購入したいバイクの条件について店長さんに話した。
807 名前:タラオ〜Acceleration of The Blood〜[] 投稿日:2007/01/17(水) 20:13:31 ID:+KpgOQih
「わかりました。ちょうどお奨めのやつがありますよ。こちらです」
店長さんは、店の奥に俺たちを案内した。
「TL1000R、最終型です。ちょっと癖のあるバイクなので、普通初心者の人には勧めないんですが…
まあ、フグタさんの息子さんですし、アナゴさんがついていることですから大丈夫でしょう」
漆黒。癖のある、ハヤブサにも通じるフォルム。
見るからにスピードのために存在するバイクということがわかった。
「試乗できるか?」「いいですよ」
店長がキーを差し込み、セルを廻すとエンジンが唸り声とともに眼を覚ました。
「タラちゃん、ちょっと先に俺を乗せてみてくれ」
アナゴさんが店長から借りたヘルメットをかぶりながら言った。ベテランとしてバイクを評価してみるつもりだろう。俺に依存はない。
808 名前:タラオ〜Acceleration of The Blood〜[] 投稿日:2007/01/17(水) 20:14:19 ID:+KpgOQih
・・・十数分後、アナゴさんが戻ってきた。
「タラちゃん、こいつはパワーあるし面白いけどさ、乗りにくいよ。
ハンドリングに癖があるし、結構重いし、低速トルクは全然ない。小回りもきかない。
ちょっと・・・他のにした方がいいんじゃないか?」
否定の連続。
「まあ、俺にもちょっと乗せてみてくださいよ。店長さんいいですか?」
「タラオ君バイク初めてでしょ?うーん…でもマスオさんの息子さんに嫌とは言えないよね」
鍵を受け取る。バイクに跨り、キーを挿し、クラッチを握ってセルを廻す。
809 名前:タラオ〜Acceleration of The Blood〜[] 投稿日:2007/01/17(水) 20:15:21 ID:+KpgOQih
Vツイン特有の排気音。2,3度軽く空ぶかししてみると、タコメーターの針が飛び上がる。
教習者とは桁違いのレスポンスに内心驚きつつも、クラッチのミーとポイントを慎重に確かめ、発車した。環七を軽く流す。
・・・なるほど、2500回転以下はスカスカだし、ポジション的に小回りなんぞ利きそうにない。
しかし・・・この荒々しいパワーと爆発的に盛り上がるトルクは・・・。
流すように10分程度走り、ポジションやスロットル・クラッチの感覚にも慣れてきた。
前方の信号は赤。ごく慎重にクルマの間をすり抜け、最前列に出る。横にはビックスクーターが2台。
横方向の信号が赤になった。回転数を6000rpmまで上げる。
青。クラッチミート、4000rpm以下には落とさない。体重を前方に預け、タンクを膝で挟み込む。
後輪が若干空転し、そしてゴムがアスファルトを食い、蹴った。前輪の接地感は、すでにほとんどない。
スピードメーターは見る見る100km/hに近づく。
2速に上げてスロットル全閉。路肩に停車し、心を、跳ね上がった心拍数を落ち着かせた。
こいつでいい・・・こいつがいい。
俺の相棒が決まった。
822 名前:タラオ〜Acceleration of The Blood〜[age] 投稿日:2007/01/17(水) 22:45:49 ID:+KpgOQih
「ん〜ほんとにいいのかよ、あれで…いやまあ、確かに店長の言うように極上車だとは思うし、
俺の言った「色」は十分持ってるバイクだけどさ、もう少し色々見たほうがいいんじゃないか?」
「そうかも知れないですけど…誰かにあいつが買われていくかもしれないと思うと、もう我慢が出来なかったんです」
もう車体は押さえてもらってきた。手続き等含めて納車は来週の金曜。
「そうか、まあいいんじゃないの?自分の気に入ったバイクじゃなきゃ乗ってもしょうがねぇもんな。女と一緒。第一印象が大切よ!
まあ、あれだ・・・俺の場合、その第一印象に従って結婚したカミさんが…アレな訳だが…」
…プッ!申し合わせたかのように眼があう…ニヤリ…ニヤリ…
「いやいや、おりゃカミさんを愛してるぜ!?ホントにさ!まあ、アレな訳だがよ…
ゲラゲラ―爆笑―
823 名前:タラオ〜Acceleration of The Blood〜[sage] 投稿日:2007/01/17(水) 22:46:48 ID:+KpgOQih
川崎に戻った。
駐車場に車を入れ、アナゴさんはこちらを振り向き、真直ぐに俺の眼を見た。
「さてタラちゃんよ…これでお前さんもバイク乗りになったってことだ。
で、バイク乗りには一つだけ鉄則があるんだ。
それはな、<バイク乗りはバイクで死んじゃならない>ってことだよ。わかるか?」
…こんなに真剣に語るアナゴさんは初めてで、俺は密かに気おされていた。
「これはな、俺の先輩の鈴木って人から教わった言葉だ。
タラオ君、走りを楽しむのはいい。ただこの言葉を頭のどこかに、常に置いておくんだ」
静かに語る言葉だけに、余計、心にしみ込んでいく。この人も、どこかで誰かの「死」を乗り越えて来たんだ…
「はい、わかりました」
「ま、年寄りの堅い言葉はこれくらいにしてだな…おりゃちょっと走りに行って来るわ」
マジェスタのドアを開けながら、照れ隠しのように言うアナゴさん。
「えっ?もう夕方ですよ?」
「まだ、夕方だ…そうだろ?」太い唇を開き、ニカッと笑う。いい笑顔。
倉庫奥のロッカーから革ジャンを取り出すと勢い良く袖を通す。
ん?「江戸前」「男前」唇マーク…?あれは―穴子!
―なにも言うまい…
―そして数分…アナゴさんとカタナは紅い西日に溶け込んで消えた…
824 名前:タラオ〜Acceleration of The Blood〜[sage] 投稿日:2007/01/17(水) 22:47:58 ID:+KpgOQih
金曜!待ちに待った納車の日!
午後イチの3時限目が終わると、友達からの遊びの誘いを振り切りダッシュ!
電車とバスと徒歩でもって、もどかしくも『イナダモータース』へ。ニヤニヤ笑いが止まらない!
「こんちは〜!」「お、タラオさんいらっしゃい。待ってましたよ」
いつもの店長。
「んじゃ、これがキーと、書類関係ね。とりあへずリアカウルの中に入れとくから。
後はメットとジャケット、ハイこれ。」「どもです」
バイクと一緒に注文してあった、シルバーのRR4と黒いダイネーゼのスリーシーズンジャケットを受け取る。
すぐに包装をといてタグをはずし、袖を通した。
「サイズ間違いないですよね?じゃOKね?なんかあったらすぐに電話してください。これ、僕の名刺ですから。
ああ、サービスでタイヤ、新しくしといたから絶対無理しないでね!」
クラッチを握り、始動。跨る。
二度、三度、スロットルをごく小さく煽り、エンジンの鼓動を確かめる。
「どうも!」「お気をつけて」
小さく会釈して環七に乗り出した。
…羽を手に入れるとは、このことを指すのか―
825 名前:タラオ〜Acceleration of The Blood〜[sage] 投稿日:2007/01/17(水) 22:49:37 ID:+KpgOQih
川崎の倉庫。紅、蒼、銀、黒。この汚らしいプレハブに陣取るバイクは、今日から4台になった。カップラーメンをすすりながら壮観な眺めを楽しむ。
アナゴさんが来るのは11時過ぎか…少し早すぎたな。彼とは、今日バイクが納車されたら早速にも一緒に走りに行く約束になっている。公道での走り方を教えてくれるという。
少し寝るか…革のソファーに横になった。
「タラオ君、おい、おきろー」
「ん、あぁあぁぁ、アナゴさん」「さ、行くぞ」
暖かいコーヒーを俺の頬に押し付けてきた。時計を見る。0時30分。
身を起こし、変な体勢で寝ていた体をほぐすため、手足を振り回しながら聞く。「何処行きます?」
「ん〜とりあえず、西。」
「も〜適当だな〜。OKです」
「よし、それでこそタラオ」
笑いあって、セルモーターを回す。
TLのVツインサウンドと、一瞬おくれて立ち上がるイレブンのどこかメカニカルな油冷マルチサウンド。
異種エンジンのハーモニー。
セブンスターを一本灰にしながら気付の缶コーヒーでのどを灼く。
電動シャッターを開け、それぞれのバイクを引き出し、跨った。
カタナとTL、二台のバイクは街灯に照らされたアスファルトを蹴る。