タラオ物語2
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727 :タラオ:2007/01/14(日) 15:18:05 ID:cwmAB1Mx
一月後、父の死にかかわる一切の手つづきが修了すると、俺は教習所に通い始めた。
2年前に車の免許を取って以来の場所だ。
3月の教習所は暇な学生たちで込み合っていて、なかなか予約が取り難いが、まあ仕方が無い。
おれも同じ立場だ。
小春日和とはいえまだ肌寒いが、スラロームやクランクなどでバイクを振り回せばうっすら汗をかく。
あの3台のバイク。
親父のハヤブサ、カツオ兄さんのGSX-R750、銀色のバイク=アナゴおじさんのカタナ。
今でも、あの光景が脳裏から離れない。
728 :タラオ:2007/01/14(日) 15:19:43 ID:cwmAB1Mx
「そのハヤブサに跨るのかどうか、お前が自由に決めていい。
マスオ兄さんはそう言っていた。
だけど、タラちゃんにもそれに乗るってことの意味はわかるだろう?」
そういって、カツオ兄さんはハヤブサのキーを俺に渡した。
「自由に」なんて無理だよ、父さん。
そもそも、俺が自由に選択したことなんて無いんだから。
物心ついたときから、俺は物分りのいい子で通ってきた。
勉強もしたし、いい高校に入り、浪人もせず人に一流といわれる大学に入った。
友人とよくない遊びもしたが、それで路を踏み外すようなことは無かった。
別に俺が選択してこうなってきたわけじゃないんだ。
そのとき、そうすべきだったから、そうしなきゃいけないから…結果、今の俺があるだけ。
周囲の期待を受けて、そのとおりに反応する。ただそれだけ。
別に、それがつらいわけでも、苦しいわけでもない。ただ、あきらめているだけ。
状況の奴隷?、そうさ、今でもそうだよ。
735 :タラオ:2007/01/15(月) 00:54:18 ID:vspoGSzm
「俺は仕事があるから、明後日、イギリスに帰らなきゃいけない。
バイクのことで、何かあったら、アナゴさんに相談するんだな。俺からも彼に話しておくよ。」
カツオ兄さんは年季が入った、けれど少しも汚さやボロさは感じない刀のタンクに手をおきながら言った。
「マスオ兄さんにバイクを教えたのは彼だそうだ。お前の知らないマスオ兄さんを一番よく知っているのはアナゴさんだ」
あれから一ヶ月、アナゴさんにはまだ連絡を取っていない。彼から電話が掛かってくることも無かった。
あの、川崎のプレハブ倉庫にも、あれから足を向けていない。
怖いのか?確かにそれもある。
ただそれ以前に、俺にはまだ、その資格が無いんだと思う。
736 :タラオ:2007/01/15(月) 00:55:22 ID:vspoGSzm
教習所で使っているバイクはCB400スーパーフォアという。
略して「フォア」とか「スーフォア」とか言う人もいるが、ライダー特有の固有名詞にはまだ慣れない。
そもそもなぜバイクの名前にはアルファベットと数字しかないのかよくわからないが…まあ、おいおい耳に慣れていくのだろう。
教習者に使われているだけあって癖の無い、非常に乗りやすいバイクとのことだが、原付にしか乗ったことの無い俺からすれば重い鉄の塊で、取り回しさえ苦労した。
親父のハヤブサからすればふた周りは小さい車体なのに、この重量感。操れるのだろうか?
「じゃあ、アクセルを少し開けて、クラッチをゆっくりリリースしてください」
教官の言葉に従って、左右の手を動かすと、するするとバイクが動き始めた!
股下からはエンジンの、力強く、それでいて軽やかな回転が確かに伝わってくる。
737 :タラオ:2007/01/15(月) 00:56:25 ID:vspoGSzm
多少のギクシャク感、アクセルの操作にバイクが反応しすぎるのだ。
クルマや原付とは違い、人間に厳しい要求を突きつける「機械」。
2速から3速に入れ、教習所内の周回コースを教官の後について走る。速度は30km/h。
ぐるぐると周回コースを回り、シフトチェンジにも慣れてきたころ、ちょっとした悪戯心が芽生えてきた。
(このバイク、どのくらいの加速をするんだろう?)
738 :タラオ:2007/01/15(月) 00:57:29 ID:vspoGSzm
周回路の短いストレート手前でわざと少し速度を落とし、教官と間を空けた。
クラッチを握って、コツコツとギアを一速に。
体勢を若干前のめりにして…アクセルをワイドオープン!
猛烈な加速G!シート上でずるずるとケツが後ろに下がる。
一瞬で教官を抜き去り、ストレートエンドへと突っ込んでいく!
フルブレーキ!フロントフォークがフルボトムし、ロックして荷重が抜けたリアは左右に振られる。
停車。車体の傾斜、ボトムしきったフォークの反発。バイクを支えきれずに立ちゴケる。
「なにやってんの!!」すぐに追いつき、血相を変えて怒鳴る教官。
「すいませんでした、ちょっとミスっちゃって…」
わけのわからない言い訳をしながらも、
俺は、あの加速Gと、一瞬だがメーターの針が60km/hを越えた瞬間を思い出していた。
740 :タラオ:2007/01/15(月) 01:44:15 ID:vspoGSzm
実技一発目でそんなことをやってしまったため、教官たちの間で俺に対する噂が広まったようだ。
「君があのフグタくんか。しっかり見ているからね!?」
こんなことを言われることもしばしば。
俺の場合、最初から大型をとるつもりで入校したため、30回以上乗る必要がある。
正直、毎回こんなことを言われると思うと、苦笑するしかない。
しかし、「血」なのだろうか?俺のライディングに教習上の瑕疵を見つけることは出来ないらしく、その後の教習は順調に進んだ。
スラローム=アクセルと体重移動、ステップインがポイント。
一本橋=視線と重心、クラッチワーク。
コーナーリング=ライン取り、目線、バンク。
頭で覚えたわけじゃない。体が自然と動くようになってきた。
200kg近い鉄の塊を、重さに逆らわず、自分の体でなだめるように制御する感覚。
不思議な感覚だ。親父もこれに魅せられたのだろうか?
今まで能の片隅で眠っていた獣が、徐々に眼を覚ましていた。