Part2-11 SABU〜新章
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627 :SABU〜新章 :2006/12/24(日) 01:31:20 ID:ZEImXQsl
首都高速湾岸線、そこには表と裏の2つの顔がある。
表・・・。則ち、日中は首都圏の物流の要となる高速道路だ。
そして裏・・・。則ち、深夜は獲物を求めてスピードと勝利に飢えた狂獣達の戦場と化す。
遥か彼方から1台のバイクのエキゾーストノートが聞こえて来る。
まるで新しい犠牲者を探しているかの様な、その甲高い音色。
今現在、「湾岸最速」と呼ばれているサブのZXだ。
そのマシンは、通常じゃ考えられない速さ、そして生きているかの様な挙動。
湾岸の走り屋達はその乗り手の事を「湾岸のSABU」と呼んでいる。
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628 :SABU〜新章 :2006/12/24(日) 01:44:24 ID:ZEImXQsl
ここに、その湾岸のSABUに挑もうとする若者がいた。
「湾岸で思い出した!磯野、今夜湾岸に上がらない?」
「ああ、構わないけども、何故だ?急に」
「湾岸のSABUって知ってる?」
「わんがんの…さぶ?北島三郎か?」
「違うよ!そいつ、湾岸で激速なんだよ!」
「ふうん…。湾岸はそう甘く無いぜ」
中島が急かす。彼はYZF1000Rサンダーエースに乗っている。
出版社に命知らずな走りが評価され、「雷皇」と呼ばれている。
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629 :SABU〜新章 :2006/12/24(日) 01:55:47 ID:ZEImXQsl
「ね?行こうよ!湾岸!」
「ああ、分かった分かった。じゃ、今夜11時に公園に。」
「了解!」
その晩、家路につくカツオの考える事は何故かSABUの事ばかりだ。
「(まさか…あのSABUが生きていたとは…。まだ走っていたのか?
噂には聞いていたが…。俺がやめてから、ここ数年姿を消していたし…。)」
マンションのドアを開けると、夕食のいい匂いがしてきた。
「お帰り〜!」
「ああ、ただいま…」
彼女はカオリ。カツオの妻で、彼女のお腹の中には新しい命が宿っている。
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637 :SABU〜新章 :2006/12/24(日) 21:57:21 ID:ZEImXQsl
「もう少ししたらさ、ちょっと中島と出かけて来るよ。」
「また…湾岸なの?」
「…うん」
心配そうな表情でカツオを見つめるカオリ。お互いが沈黙したまま時が流れた。
「大丈夫だって!もう、あんな事は絶対に起こさないから。じゃあ、行って来るな。」
「行ってらっしゃい、気をつけてね。」
ヘルメットを片手に公園まで行くと、先に中島が到着していた。
「遅いよ磯野!」
「すまんすまん。じゃ、行こうか。」
「磯野が乗ってくれよ。俺はパッセンジャー。」
「え?あ…ああ、いいけど…。本当にいいのか?」
1年ぶりに乗る、バイクという乗り物に、カツオは戸惑っていた。
カツオは訳あって、バイクから遠ざかっていたからだ。
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638 :SABU〜新章 :2006/12/24(日) 22:26:31 ID:ZEImXQsl
キーを回し、セルスイッチをを押す。サンダーエースのエンジンは
一発で目覚め、高揚感のある排気音を周囲にもたらす。
暖気している間に中島は、2人のメットにマイクとスピーカーを取り付ける。
そしてカツオは葛藤に悩み、苦しんでいた。
「(カオリにはもうバイクには乗らないと約束した…。
ちょっと前から中島が運転することを条件にタンデムでの乗車を
許してくれるようになったけど…。まぁ、事故らなければ大丈夫だろう。)」
「磯野!何やってんだよ。早くしてよ!」
「お、おう。」
ギアを1速に入れ、ゆっくりとスロットルを開く。
去年のカツオの荒々しいライディングと比べると、打って変わって別人のようだ。
数Km走り、13号地ランプから湾岸線に入る。
C1や台場線でのタンデムは禁止されているからだ。
非常に丁寧な乗り方に、スピーカー越しに中島から苦言が呈される。
「もっと飛ばせよ。90Km/hって何だよ〜。このサンダーエース、
タンデムでも220Km/hは出るハズだぞ!」
中島の発言はまんざらウソでもあるまい。自らも協力して仕上げた単車だ。
100万以上つぎ込んだカスタムは、走る・曲がる・止まるの全てにおいて
完璧ともいえるレベルまで達している。重量増は大した苦にならない。
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639 :SABU〜新章 :2006/12/24(日) 22:39:43 ID:ZEImXQsl
「磯野、もう首都高は走らないの?」
「もう…十分だ。自分のバイクも持たなくなったし。」
「確かにカオリちゃんの事もあるけど…でも、今ならトップクラスまで行けるよ?」
「…もうたくさんだよ。今日限りで終わりだ。やっぱり俺はダメだ。」
東京港トンネルを抜け、大井のカーブに差し掛かった。
「(タンデム且つ高速度でこれだけのバンク角…。不思議とコケる気がしない。
つくづく、中島のチューニングは恐ろしいな…。)」
次の瞬間、後ろから物凄い勢いでヘッドライトが迫ってきた。カツオがミラー越しに察する。
「…来たな。この懐かしい雰囲気と存在感…。」
「え?何?」
「湾岸のSABU…!」
「!!」
サンダーエースのすぐ後ろには黒のZX-11の姿があった。
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645 :SABU〜新章 :2006/12/26(火) 01:01:36 ID:nCjP+icb
シフトダウンし、呼吸を整えてから全開に入るカツオ。140…150…160……
スピードメーターとタコメーターの針が跳ね上がる。
「しっかり掴まれ中島ァ!」
「磯野、全然離れてないよ!」
「(離れないどころか…、距離が縮まっている!?
…クソッ!抜かされる!)」
カツオの腕は第一線を退いたとはいえ、なまらな首都高ランナーよりも
数倍上手い。…が、SABUに並ばれたが最後。突き放されてジ・エンドだ。
メーター読み210km/h。SABUに容易くパスされたカツオはスロットルを緩めた。
「…まだ加速してやがる」
ZX-11の後ろ姿を見送るカツオの顔には、何故か笑みがあった。
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646 :SABU〜新章 :2006/12/26(火) 01:25:48 ID:nCjP+icb
「(もし、昔の俺だったら全開にし続けただろう。冷静さを失い、焦りがミスや
慌てを次々と呼び…そして悲惨な結果が待っている。
勝つことよりも、生きて帰ることが重要だ。中島と一緒に帰ることが。)」
SABUの丁寧な一般車のスラロームにカツオは舌を巻いた。
無理や無駄が無く、スピードを極力殺さない…。それに比べて俺は…。
自らのスラロームと重ね合わせてみると、いかに稚拙で危険かが分かる。
カツオの笑みは、いつしか苦く重いものに変わっていた。
カツオはクーリング走行のペースで大井PAにサンダーエースを滑り込ませた。
「凄いじゃん、磯野。昔のカンはもう戻ったろ?」
中島が缶ジュースを飲みながら、カツオを賞賛する。
ブランクがあるとは思えないほど、研ぎ澄まされた走りだった、と。
「…それはそうと、やっぱり湾岸のSABUのこと知ってたんだ。
北島三郎とかいってカマトトぶりやがってよ。」
「ああ…。去年、ヤツと一緒に走ったのを最後に湾岸を降りた。
SABUは…、俺が居なかったこの1年で更に速くなった。」
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647 :SABU〜新章 :2006/12/26(火) 01:51:36 ID:nCjP+icb
それから1時間後、カツオはマンションに帰ってきた。無傷で戻ってこれたことを
中島とカオリに感謝した。カオリが寝ていることを案じ、静かに部屋に入った。
その時、寝てるはずのカオリがカツオを呼んだ。
「カツオ…!?」
「カ、カオリ…、起きてたのかよ。」
「今、目が覚めたの。」
「ああ…、そうなんだ。ごめんね。」
「ねぇ、明日は定期検診の日だから、カツオも来てくれる?」
「分かったよ。じゃあ早く寝なきゃ。おやすみ〜」
「おやすみなさい♪」
翌日、病院の待合室でバイク雑誌を見ていると見覚えのある顔が出てきた。
「あ、中島だ。へぇ、あいつ凄いじゃん…。」
雑誌の特集に中島とその愛機であるサンダーエースが載っていた。
特集の名前は『“雷皇”氏の最速伝説!』というものだった。
「『深夜2時、彼とYZF1000Rは首都高に吹く一筋の風となる。
銀座S字をコーナリングするその姿は…』…なんだこりゃ?」
そんな感じで時間を潰していると、カオリの診察が終わったようだ。