1-27 マスオ物語 

トップ > 2ch > 三河屋 > マスオ1-27


43 :魔 棲 雄 〜マスオ物語〜:2007/01/30(火) 00:53:01 ID:JDsm2EJv
【SCENE103】
夜の第三京浜に、悪魔の歌声が響いた。
地の底から湧き上がるが如き、野太く不気味な『devil』の排気音・・・。僕はその日、いつものように超高速で駆け抜ける
事はせず、じっくりとその音色に耳を傾けながら走った・・・
弾ける様な高音と、唸るような低音。その和音が心に迫る。僕の・・・いや、男の野性を呼び起こすような、それでいて
包み込まれるような歌声に生まれ変わった愛車Ninjaのエキゾーストノート。

装着直後の走り出した瞬間に、やや低速トルクが失われた事にはすぐ気が付いた。
しかし、玉川ICから第三京浜下り線に駆け上がり、2速全開でこれまでとは異なる速度の「伸び」を体感した時、その失った
低速トルクはご愛嬌ともいえるレベルの話である事に気が付く。

・・・楽しい・・・。獲得した高回転域の絶対的なパワーもさることながら、それ以上にその突き抜けるような滑らかに加速する
感触と魂を誘うが如き排気音がスロットルをワイドオープンする楽しさをもたらす・・・。
笑いながら「50ドルでよい」というレッドに渡した当時の円相場で60ドル程度であろう15000円。この快感がたった
それだけの対価で手に入ったのであれば、それは僕にとって超特価だった。

その力強い加速と快音を楽しみたくて、僕は何度も4速で加速と減速を試した・・・。

保土ヶ谷PAにCB1100Rと鈴木さんがいた。
馴染みの顔と立ち話していた鈴木さんは、いつもと異なる排気音で近づいてくるNinjaに気がつき、駆け寄ってきた。
そのサイレンサーがdevilと知ると案の定、僕をからかいだす。

「ほら!やっぱりキミは『魔』に縁があるのさ。『魔棲雄』のカンバンを背負うべき男なんだよ!」

「いや、もう、ホントに勘弁してくださいよ〜」

またアスファルトに小石で『魔 棲 雄』と書き出す鈴木さん。もうホントいいですって!

街灯に照らされたdevil菅装着のNinjaは、以前にも増して、強く、そして凛々しく見えた。
そんな愛車を眺めながら飲む缶コーヒーは格別だった・・・。その日、僕は飽きることなくその勇姿をいつまでも眺めていた。


-------------------------------------------------
44 :魔 棲 雄 〜マスオ物語〜:2007/01/30(火) 00:54:53 ID:JDsm2EJv
余談であるが、1985年の2月頃。カタナともNinjaとも一線を画す一台の名車が、また日本で産まれた。
基本的にはワンセッティングであるはずのキャブレターという燃料供給装置。その弱点に対する一つの解答をひっさげて
そのマシンはデビューした。
ぶ厚い低速トルクと爆発する高回転域のパワーを、「Vブースト」というシステムで両立した怪物『Vmax』だ。
そのパワー、なんと145馬力。そしてNinjaも霞むようなそのパワー以上に僕を魅了したのはその隆々たるスタイリングだった。
当時の僕が追い求めていたスピードの方向性とは異なるキャラクターであった為、まさかNinjaから乗り換えようなどとは
露にも思わなかったが、こいつのデビューが仮にNinjaと同時期であったならば、僕は大いに惑わされていたであろう・・・。

いつかお話した事があるかもしれない・・・。僕は無骨で力強いものに魅了される節がある。それは自らが持たざるものを
求める人間の自然な心情なのかもしれない。
遂に当時の僕はVmaxに乗る機会すら叶わなかったが、その後、10年以上の時を経てこのマシンを所有し、これまでの僕の
車歴の一台となった事からも、当時の僕のVmaxに対して感じたインパクトがいかに大きかったかという事が伺えると思う。

Ninja・・・そしてVmax。1985年前後のこの頃から、現代に繋がるバイクの超高性能化がハッキリと幕を開けたような
気がする。
遂に手に入れたカスタムマフラー。第三京浜最速の呼び声高い我が愛車。次々とデビューする新型機種・・・。
新しい商品、新しい価値観・・・。後に「バブル」と呼ばれる未曾有の好景気に向かって、浮つき始めた時代だったのかも
知れない。
そして僕もアナゴ君も、新しく手に入れたパワーとそんな時代の空気が相まって、少し浮つき始めていたのかも知れない・・・。

鈴木さんのCB1100Rが少し古臭く感じたのもその頃だった・・・。
・・・時は残酷にその流れを加速していった・・・。大切な「何か」を置き去りにしながら・・・。


-------------------------------------------------
128 :魔 棲 雄 〜マスオ物語〜:2007/02/04(日) 01:17:16 ID:Shqg/Qn+
【SCENE104】
暖かい日が多くなってきた1985年3月。僕はどうやら無事に大学3年生になれそうだった。

桜のつぼみは大きくほころびはじめ、バイク最適シーズンが近づいていることは明白。
今年はどこにツーリングへ行こうか?などと、暖かい風に吹かれていると心は躍る。
・・・しかし、陽気とともに迷惑な輩もまた活動を開始し始めるのも世の常・・・。それはそんな春先の夜の出来事だった。

例の如く、バイトで疲れていた僕は六畳一間に帰りつくと万年床に身を横たえた。
すぐに睡魔が襲って来る・・・。明日は週末だな・・・。
アルバイトの作業着姿は眠るには心地の良いものでは無かったが、週末の夜の第三京浜でのお楽しみに備え、僕は
そのまま睡魔に身を委ねる事にした・・・。
外では暴走族がけたたましく街を行き来しているのが聞こえた・・・が、それが僕の眠りを妨げる事は無かった。

尿意に襲われ目が覚めた。寝ぼけ眼で目覚まし時計に目をやると、日付をまたいで30分ほど経っていた。
・・・便所に行こうか、行くまいか。ハッキリしない意識の中に僕は居た。


-------------------------------------------------
129 :魔 棲 雄 〜マスオ物語〜:2007/02/04(日) 01:18:19 ID:Shqg/Qn+
部屋の外から物音が聞こえたような気がした・・・。ボソボソと話し声が聞こえたような気もした。
しかし、己の尿意すら誤魔化そうとするほど眠気に支配されていた僕の脳は、それらの音に対してそれ以上の反応を
する事は無かった。

それから数分。ダメだ、トイレに行こう、と布団を抜け出そうとしたとき、一際大きな『パキン』という金属音がした。
そしてその直後・・・。

『キュゴゴゴゴゴ ヴォン!ヴォン!ボボボボボボボボ』

という、よく聞き慣れた内燃機関の始動音。

「まさか!」
反射的に僕は布団の上に跳ね起きると、靴も履かずにドアを開き外に出た。そこには信じられない光景が・・・。

そのヘッドライトも眩しく起動した大型二輪車は、我が愛車GPZ900R Ninjaに他ならなかった・・・。

「おい!人が来たぜっ!ヤベーって!」

「ヤベっ!おらっ!早く行くぞ!」

何者かが乗車する我が愛車は、中型らしき暴走族仕様のバイクを2台引き連れ、フラフラと路地に出て行く。

「ま・・・待て!!!!」

そんな僕の叫びはDevilに掻き消された。
僕は走った。靴下のまま無我夢中に盗人達の走り去った方へ走った。・・・が、その後ろ姿に追いつくことはもちろん
出来なかった・・・。
僕は、表通りで人目もはばからずへたり込み、茫然自失でNinjaが走り去ったであろう方角を見つめていた・・・。


-------------------------------------------------
130 :魔 棲 雄 〜マスオ物語〜:2007/02/04(日) 01:19:04 ID:Shqg/Qn+
・・・やられた・・・。そんな・・・何かの間違いだ・・・。Ninjaが僕の前から姿を消すなんて・・・。
混乱した頭が現実逃避を試みようとするが、愛車は僕の目の前で走り去ったのだ。それは厳然たる事実だった。
真っ白になってしまった頭でも、まず始めに何をしなくてはならないかはかろうじて解かっていた。
僕は、手近な電話ボックスから警察へ通報する。・・・初めて、赤い緊急連絡ボタンを押した。

相当に混乱していた僕は、伝えるべき内容と順番も無視して受話器にまくし立てた。
僕自身は、その時に何と言ったのか今となっては覚えていないが、相手の警察にとっては単なるバイク盗難事件に
過ぎない。すぐに向かうと言われたので、僕もフラフラと部屋へ向かった・・・。靴下で踏みしめるアスファルトが、
ことのほか硬いものであることに、その時初めて気が付いた。

アパートに帰っても、もちろんそこにNinjaの姿などあるはずも無い。駐輪場には切られたチェーンロックとチェーン
カッターが空しくそこに転がっていた。
それを見て、愛車盗難の事実が現実のものとして僕の心に押し寄せる・・・。知らず呼吸は荒くなり、胸は押し潰され
そうに痛い・・・。
半年に及ぶ必死のアルバイトと、現在も続くローンの結果手に入れたNinja・・・。最高の相棒であり、今の僕の全て。
それが、突然にどこかのガキどもの手によって奪いさらわれた・・・。
僕はなす術もなく、頭を抱えてその場にしゃがみこんだ・・・。なおも激しい動悸が僕を襲った・・・。


-------------------------------------------------
131 :魔 棲 雄 〜マスオ物語〜:2007/02/04(日) 01:20:20 ID:Shqg/Qn+
程なくして、真っ赤な回転灯が近づいて来た。僕が呼んだパトカーだ。
第三京浜では疎ましい存在である白と黒に塗り分けられた警察車両が、その時ばかりは心強い味方に見えた。全く
調子よいものだと自分でも思う。

すぐに現場で警察官からの事情聴取が始まった。もう一人の警官は、駐輪場周囲の検証を行う。

「じゃあ、カギとチェーンは掛けてあったんだね」

「・・・はい」

パトライトの灯りに誘われて、何事かと近所の視線が深夜にも関わらず集まる。被害者のはずの僕は、まるで犯罪者
のように俯きながら警察官の質問に答えた。

「もしかしたら、そのうち出てくるかも知れないけど・・・でも、どうかなぁ・・・」

警官は他人事のようにそう言った。若い僕はその言葉に少々苛つきを覚えたが、そもそも他人事だ。無理も無い。
当時のバイク盗難は、現在主流の売買を目的としたプロの窃盗団によるものとは毛色が異なり、今回のような暴走族や
未成年者が、自らが乗る為に行うというのがほとんどだった。
その場合、幸運にも手元に戻ったところで傷だらけの廃車寸前という事が多かったし、そもそも手元に戻る確立だって
相当に少ない。


-------------------------------------------------
132 :魔 棲 雄 〜マスオ物語〜:2007/02/04(日) 01:21:16 ID:Shqg/Qn+
「カバーはしてなかったんでしょ?ダメだよ〜。見えなくするだけでも抑止効果はあるんだよ?」

警官の言う事はいちいち最もで余計に腹が立つ。確かにバイクカバーを買う金が無かったわけではない。しかし、
チェーンロックは掛けてあるから・・・、自分だけは大丈夫・・・、などという甘えがあったことは否定できない・・・。
当時、盗難対象は中型が主流であった為、大型は狙うまいという心の隙もあったかも知れない・・・。

僕は絶望のどん底に居た・・・。もはやこの世に生きている意味すら無いなどと思い始めていた・・・。
しかし、この盗難騒動は発生から一時間もしないうちに実にあっさりと終了するのだ。一人の男の手によって・・・。

現場検証と僕からの聴取も終わりかけていた頃、警官の一人がパトカー無線でなにやら連絡を取り始めた。

「・・・当該車両発見・・・被疑者少年確保・・・了解。」

「はい。直ちに所有者同行し現場に車両確認に向かいます。・・・了解。」

そして、その警官は僕の方に歩いてきて言った。

「見つかったってさ。キミのバイク。品川○○−○○。これキミのバイクのナンバーだろ?」

盗まれた時と同じように、わけもわからず頭が真っ白になっている僕が居た。


-------------------------------------------------
133 :魔 棲 雄 〜マスオ物語〜:2007/02/04(日) 01:21:55 ID:Shqg/Qn+
バイクを動かせる装備を持っていくように促された僕は、とりあえずヘルメットとグローブを手にパトカーへ乗った。
期待と不安に落ち着かない僕に警官は言う。

「よかったね〜。お兄さん。こんなにすぐに出てくるなんて珍しいよ〜」

パトカーは、僕のアパートを出発して15分後、川崎手前のコンビニエンスストアに滑り込んだ。そして、僕は感動の
再会を果たす。

・・・あった・・・。コンビニの明かりに照らされ光り輝く我がNinja・・・。もはやバイクに傷が付いているかどうかなど
どうでも良く、車体が僕の手元に戻っただけでこれ以上望むことなど無かった・・・。
僕は警官に「ありがとうございます」と言ったが、先に現場に到着していた別の警官が言った。

「礼ならこのお兄さんに言いなさい。体を張って取り返してくれたんだから」

警官が目配せする先には、僕がよく知っている男が立っていた・・・。鈴木さんだった・・・。


-------------------------------------------------
134 :魔 棲 雄 〜マスオ物語〜:2007/02/04(日) 01:22:59 ID:Shqg/Qn+
「よっ」

「え?あれ?鈴木さん?なんで?」

頭が混乱する事が実に良く続いた日だった・・・。再び落ち着いてあたりを見回すと、CB1100Rがあった。

「明らかにキミのNinjaなのに、明らかにキミじゃないヤツが乗ってたからね〜。まさかと思ったけど、尾けてよかったよ」

鈴木さんは笑いながら言った。
鈴木さんと警官の話によると、怪しんだ鈴木さんは数キロの追尾の後、コンビニに立ち寄った暴走族を問い詰めたそうだ。
その内、中型に乗った二人は逃走したそうだが、主犯格のNinjaに乗った少年をその場で取り押さえたらしい。
少年は抵抗したが、鈴木さんは少年を組み倒し、腕をひしぎ、駆けつけた警察に引き渡した。
取り押さえる際、鈴木さんも少年に一撃を見舞われたそうだ。

「大したこと無いさ」

そう言って笑う鈴木さんの左目周辺は紫色に腫れ上がっていた・・・。


-------------------------------------------------
135 :魔 棲 雄 〜マスオ物語〜:2007/02/04(日) 01:24:08 ID:Shqg/Qn+
簡単な聴取の後、僕のNinjaは正式に僕の手に戻った。全ては僕の油断が招いた出来事であり、全ては鈴木さんに
よって救われた出来事であった・・・。
・・・僕はこれまでの人生の中で、これほどまでに頼りになる兄貴分を知らない・・・。実の兄には申し訳ないのだが・・・。
CB1100Rを駆るその男は、僕の人間的目標だった。アナゴ君だってそうに違いなかった・・・。カッコ良かった・・・。

Ninjaは破壊されたキーシリンダー以外、全くの無傷だった。
明日は上野に行こう。チェーンロックを3本くらい買おう。そしてもちろんバイクカバーも買おう・・・。オヤジさんのところ
に行って、新しいキーシリンダーも頼まなきゃいけないな。おっと、その前に・・・。

「鈴木さん、腹減りませんか?ラーメン食いに行きましょうよ。僕が奢ります!」

「おっ!いいねぇ!キミの奢りなんて初めてだなぁ。チャーシュー麺頼んでもいい?」

「えぇ〜?」


・・・NinjaとCB1100Rは、東京方面に向かって走り出した・・・。
1985年、春。その頃、僕とアナゴ君にはもう一人の「兄」が、確かに居た・・・。


←Back  Next→