1-20 マスオ物語
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116 :魔 棲 雄 〜マスオ物語〜:2006/06/10(土) 00:02:26 ID:bitX2r1H
【SCENE70】
大間−函館間を結ぶ、フェリーボート『大函丸』の甲板で、僕は15ノットの心地よい海風に吹かれていた。
航跡の先で、つい数時間前に謎のNS250Rと心地よいバトルを繰り広げた下北半島が徐々に遠ざかり、舳先を見やればライダーの楽園、北海道が霞んで見える・・・。
2時間にも満たない、しばしの船旅。僕は飽きる事も無く、ひとり北の海を眺めていた・・・。
目前に迫る北の大地への期待は、胸を張り割かんばかりに膨れ上がっていた・・・。
そして、遂に大函丸は北の玄関口、函館港へ到着。
錆だらけの古びた船体から、ピカピカの最新大型バイクは飛び出す・・・。
一年前の初上陸の日と同じように、本州よりもコントラストの強い青空が、僕の頭上に大きく広がっていた・・・。
来た・・・、来た!ついに来た、北海道!
このままさらに北上すれば北海道の真髄、広大な大地とそれを切り裂くが如く地平線の果てまで続く直線路が待っている。・・・しかしだ。焦る事は無い。僕は腹が減っていた。
函館駅前にNinjaを停めた。一年ぶりの「本物のイカ」に舌鼓を打つ・・・。
函館のイカを愛してやまないアナゴ君は、今頃僕が一人で美味いイカを食べている事を知ったら、きっと悔しがるだろう・・・。
腹を満たし駅前に戻ると、首からカメラをぶら下げた観光客らしき中年男性が3人、Ninjaを取り囲んでいた。
近くに観光バスが停まっていた。彼らはにわかに酒臭かった・・・。
「おっ。このバイク、お兄ちゃんのかい?」
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117 :魔 棲 雄 〜マスオ物語〜:2006/06/10(土) 00:03:12 ID:ONegS1q5
・・・しまった・・・捕まった・・・、と思った・・・。
この旅に出てから、仙台、青森に続き3組目・・・。
バイクに乗っていると時折 このようなバイクに乗らない人々に話しかけられる事がある。
彼らのほとんどは中年男性である。そして、目の前のバイクについて、持ち主のライダーを質問攻めにするのだ。排気量は?スピードはどのくらい出る?幾らで買った?
・・・誤解の無いよう付け加えておくが、僕は他人との会話がイヤだったり、面倒くさかったりするわけではない。
が、しかし。僕が彼等との遭遇で、ほとんどの場合に辟易させられる理由があった・・・。
それは、極めてワンウェイな彼等の質問にある。
彼らが質問し、僕がそれに答える・・・。それだけ・・・。
しかも彼らは、僕から聞きだした情報を特に咀嚼するわけでも、そこから何かを発展させようとするわけでもない。
ほとんどの場合、「ふ〜ん、スゴイね〜」というような、穿った見方をすれば「そんな大きいバイクに乗る意味あるの?」とか「こんなモンにそんな高い金を出して・・・」というような感情を内包したような淡白な返事が返ってくるだけだ・・・。
直感的な部分でもかなりのズレがあるので、「夏はイイね〜、涼しそうで」などという素っ頓狂な事を言われ、返答に苦慮する事だってある。
真夏の35℃の熱風が涼しいかどうかは、バイクに乗らずとも解りそうなものなのだが・・・。
おっと、愚痴っぽくなってもいけない。彼らは素直に疑問に感じた事を質問してきているだけなのかも知れない・・・。
それなのに、あまりに否定的に受け止めるのも考えモノだ。
僕はいつもこのような場合、努めて冷静に、相手に不快感を与えぬよう、聞かれたことに答え、時に「そちらは何処からいらしたんですか?」などと弾むはずも無い会話を弾ませようと
頑張ったりもするのだ。
「この単車、すごいね〜。これホンダ?」
何処を見て言っているのか・・・。『Kawasaki』の文字が目に入らないと見える・・・。
それでも、バカ丁寧に川崎重工製であることを教えてあげる。
と、その中の一人からお決まりのセリフが飛んできた。
「それにしてもデカイね。ナナハンかい?」
「いえ、900ccなんですよ。」
「ふ〜ん、あんまり大きいからナナハンかと思ったよ。」
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118 :魔 棲 雄 〜マスオ物語〜:2006/06/10(土) 00:04:05 ID:bitX2r1H
・・・ダメだ・・・、訳がわからない・・・。
もちろんご承知のとおり、ナナハンとは排気量750ccのバイクの俗称である。
なのに何故、まるで900ccのNinjaの方が小さいが如き扱いをうけるのだろうか・・・。
・・・推測の域を出ないが、おそらく『ナナハン』とは彼らの脳内で『ものすごく大きなバイク』という、やや誤った認識の代名詞と化してしまっているのではないか・・・。
まぁ、僕もアナゴ君に初めて出会ったときに聞いたのは、カタナの排気量と最高速度だったし、アナゴ君の「ナナハン」という言葉に、あまり深く考えずに驚いてしまっていたので人の事は言えないのだが・・・。
僕は彼らの次の一言を予測する・・・。おそらく、自分も昔はバイクに乗っていたという内容だろう。
車種はおそらく『ラッタッタ』か『陸王』、もしくは『メグロ』のはずだ・・・。
「俺も昔はラッタッタに乗っててよ・・・」
来たっ!当たりだ!・・・しかし、予想が当たったところで嬉しくもなんとも無い・・・。
なぜなら、ここまで一方的に盛り上がられてしまうと・・・話が長くなってしまうのだ・・・。
極々パーソナルな彼らの昔話が終了するのを、僕は時折、無感情な相槌を交えながら耐え忍んだ・・・。僕は努めて大人な対応をしていたつもりだった。
ライダー代表として、非ライダーに悪感情を植え付けぬよう繊細な注意を払っていた。
最高速だって「120km/hくらい」ということにしておいた・・・。
とにかく僕は頑張った・・・。が、彼らの一人がNinjaのスロットルを勝手に握り、そして回した時、僕は反射的に言い放ってしまった・・・。
「ちょっ!勝手に触らんといて!」
条件反射的に口から飛び出した故郷の言葉にビックリしたのは彼らだけではなかった・・・。しまった・・・やってしまった・・・。
どうも僕はバイクの事となると人格が変わってしまうようだ・・・。突然の険悪な雰囲気に、その場を逃げるように立ち去る
彼らの背中を見送る・・・。
彼らは観光バスに乗り込み、ほどなくしてバスは発進し、僕の目前から消えた・・・。
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119 :魔 棲 雄 〜マスオ物語〜:2006/06/10(土) 00:04:44 ID:bitX2r1H
僕は自分の大人気なさを深く自戒しつつ、心中で自己弁護をする。だってそうだろう。
これがクルマだったら、どこの世界に他人のクルマの運転席に無断で座り込み、ハンドルやペダルを操作したりする者がいるだろうか?
Ninjaは僕が汗水垂らして勤しんだ労働の対価であり、自らの命を乗せて走る大切な相棒だ・・・。
男性が気楽に触ったスロットルは、ライダーが自らの意思を精密にバイクに伝達する為の大切な部位だ・・・。
断じて、勝手に踏み込んでよいものではないのだ・・・。
僕は、バイクに乗るということが、ことさらに特別な行為であるとは思っていない・・・。
いや、バイクが享受してくれる楽しみや悦楽というものは、僕にとって「特別」なモノであることは否定しないが、バイクを運転するという行為そのものが、選ばれし特別な人間にしか出来ない事であるという意識などは毛頭持ち合わせていない・・・。
・・・が、僕が時折出会う、彼らのような人達に対して感じる、この「異世界感」ともいうべき隔たり感は一体なんなのだろうか・・・。
バイクに乗る者、乗らない者・・・。
個人的には、決して単純な感情論などで線引きをしたくないこの二つの「人種」の間に、それでも時として厳然と横たわる目に見えない境界線を意識し出していた僕は、ライダーとして次のステップに踏み込もうとして
いたのかも知れない・・・。
後味の悪さを振り払うような、力強く心地よい愛車の鼓動は、僕をさらに北へと運んで行く・・・。
大沼の湖沼が太陽の光を浴びて美しくきらめき、駒ケ岳の雄大な山肌は美しい緑に萌えていた・・・。
本州のものとどこか異なる北海道の透明な空気が、目の前の風景をさらにひき立てる・・・。
北上するにつれ、柔らかくなっていくかの如き風が、僕の心を癒しへと導く・・・。
一台の観光バスを抜いた。おそらく先ほどの一行が乗ったバスだろう。
昼間から酒を飲んで、おじさん達はこの風景を見逃してはいないだろうか?
空調の効いたバスの中で、この心地よき北の風を味わい損ねているのではないだろうか?と、余計な心配をする・・・。
・・・バスはミラーの中で瞬く間に点になり、そして消えた・・・。僕は前を向きなおし、ただひたすらに走り続けた・・・。
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225 :魔 棲 雄 〜マスオ物語〜:2006/06/16(金) 00:03:08 ID:VXO0iAIw
【SCENE71】
陽炎に揺らめき、地平線に消える直線路・・・。
その道の先に、真っ白な城の如くそびえる入道雲・・・。そして頭上には吸い込まれるように透明な青空・・・。
そろそろ、いい頃だろうか?僕は、この大地を貫く美しきストレートに居るのが自分だけである事を確認すると、ステップに立ち上がり、両の腕を天に突き上げた・・・。
僕は北の大地の懐に居た・・・。
ほとんど、この景色と風を独り占めするだけのために、遥々東京からここまで走ってきたようなものだ・・・。
最後にブレーキレバーに指を掛けたのはいつだったろう・・・。
最後にウィンカーを点滅させたのはいつだったろう・・・。
ただひたすらに前に向かって進むという、バイクという乗り物にとっての根源的でありながら中々にして実現できないシチュエーションに身を委ねられる幸せを、僕は噛み締めていた・・・。
月並みな表現である事は百も承知で、それでも言わせてもらえれば、北海道はやはりライダーにとって「天国」だ。
これほどまでに、愛車と自らが一体となって走ることに集中できる場所が他にあるだろうか?
おそらく海外には、北海道以上のスケールを持った雄大で広大なフィールドもあるのだろう・・・。
だがしかし、これほどまでにバイクに乗る事そのものに集中できるのは、日本国内であるという安心感も寄与しているのだろうし、
それに、聞くところによると、アメリカやオーストラリアの直線路は、それこそ砂漠や土で構成されただだっ広い荒野を数時間連続で走っても全く景色の変わらないようなところもあるというが・・・、それでは広すぎなのだ。
真っ直ぐなストレート・・・。豪快なワインディング・・・。耕作地帯・・・。森林地帯・・・。海・・・。山・・・。そして都市・・・。
ほどよい広さの北海道は、実に絶妙な配分で景色を移ろわせ、ライダーを飽きさせる事が無い。
知らず知らずのうちに溜まっていた都会暮らしのストレスは、一瞬のうちに北海道の柔らかな風に溶けて、消えた・・・。
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226 :魔 棲 雄 〜マスオ物語〜:2006/06/16(金) 00:04:39 ID:urX2aAnk
直線路の先に、久しぶりの前走車の姿が見えた・・・。
そのクルマは、遥か後方からでも右に左に蛇行し、怪しい動きをしているのが見て取れた。
3ケタに届こうというスピードでクルーズしていた僕は、徐々にそのクルマに追いついていく。
すると、その忌まわしき状況が明らかになった・・・。
本州ナンバーのそのクルマの前には、バイクが居た・・・。荷物満載のアメリカン。
そのクルマは、前走するそのバイクを煽っていたのである。
今にもぶつかりそうな距離で蛇行を繰り返す日産セドリックは、 その「愉快な行為」にご執心と見え、僕が追いついた事にも気がついていないようだった。
男性のものと思われる頭が、運転席と助手席に二つ見えた。
ルームミラー越しに、ドライバーのサングラスと醜い笑顔が見えた・・・。
その行為はあまりに悪質だった・・・。
そのアメリカンは決して遅いペースで走っていたのではない。
80km/hは出ていただろう。
それに、追い越し禁止区域でもなければ、対向車が来るわけでもない。
後ろについて走るのが気に喰わないのであれば、さっさと先に行ってしまえばよいのだ・・・。
これは、明らかにバイクを煽る行為そのものを楽しんでいるのは明白だった・・・。
一つ印象的だったのは、ビッグアメリカンに乗ったその男性が、後ろで起こっている出来事に対して全くの無反応で、マイペースの走りをしている事だった。
自分に降りかかった災難ではない。が、僕は一瞬にしてヒートアップした・・・。
同じバイク乗りが、このような悪質な行為に晒されている事はもちろん許せなかったし、何時何処の人間が決めたのかも知らぬ「公道はクルマのもの」という既成概念の中で、邪魔者扱いを強いられる二輪車を取り巻く環境に抱いていた怒りをぶつける絶好のチャンスだったのかも知れない・・・。
とにかく・・・次の瞬間に僕は白線をまたぎ、セドリックの右隣に移動していた・・・。
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228 :魔 棲 雄 〜マスオ物語〜:2006/06/16(金) 00:08:47 ID:urX2aAnk
相手からしてみれば、突然に現れた大型スポーツバイク。
つまらない宴に興じていた二人の青年は、驚いた顔をしていた。
その数秒間の並走の中で、僕は相手に向かって左手で挑発的なサインを送る。
そして、クラッチを切りスロットルを大きく開ける・・・。
ノーマルサイレンサーでも、これほどの至近距離でレッドゾーンまで回せば、威嚇には充分だ。
僕はクルマの二人の顔色がふざけて緩んだ顔から、怒りの表情に変わったことを見届けると、やや加速する。
バックミラーの中で、セドリックはアメリカンバイクを追い抜き、僕にぐんぐんと接近してくるのが解る・・・。そうだ、来るんだ!
アメリカンが大きく引き離された事を確認すると、僕はNinjaの持つ「本当の加速」をした・・・。
僕はこのセドリックとのバトルも視野に入れていたのだが・・・次の瞬間、相手はバックミラーの中で小さな点になり、二度とその姿を写すことは無かった・・・。
なんて張り合いが無いのだ・・・。僕は一人で勝手に高鳴らせた心臓の鼓動を感じながら、様々な意味での空しさに
包まれていた・・・。
つまらない人間の下らない行為に対して、直情的に反応してしまった自分の大人げなさや、その後のクルマのあまりにも不甲斐ない走りも去ることながら、バイクに乗っていると時折遭遇する、バイクに乗らない者からの一方的な悪意に対して、僕の若い魂は怒りと共に一抹の寂しさを引きずっていた・・・。
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230 :魔 棲 雄 〜マスオ物語〜:2006/06/16(金) 00:09:54 ID:urX2aAnk
その日の夕方、僕はNinjaと共にキャンプ場に居た。バイクをサイトまで乗り入れられる、バイク乗りとしては理想的なキャンプの出来るキャンプ場。
テントを張り終え湯を沸かす準備をしていた僕の耳に、心地よいVツインサウンドが聞こえて来た・・・。
音の方向を見ると、一台のアメリカンバイクがいままさにキャンプ場に到着したところだった・・・。
当時、その手のバイクに詳しくなかった僕は、そのバイクをHarley−Davidsonだと決め付けて疑わなかった。
が、今になってよくよく思い返してみると、そのバイクはIndianに違いなかった・・・。
そして、そのあまりにも特徴的なそのバイクは先刻クルマに煽られていたバイクである事も間違いなかった・・・。
夕陽によく映えるIndian Chiefに跨る細身の初老の男性は、Ninjaの姿を見つけると僕に向かって左手を挙げ挨拶をしてきた・・・。
白く長い髭の中で、彼の口元は優しく微笑んでいた・・・。
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257 :魔 棲 雄 〜マスオ物語〜:2006/06/18(日) 22:42:33 ID:fX2ox8UY
【SCENE72】
「あんな連中は、どこにでもいるもんだよ・・・」
Indian乗りのその男は焚き火に枯れ枝を放り込みながら言った。
僕のテントの隣に今晩の宿を決めた彼と僕は、あまり人気の無いキャンプ場の片隅で、語り合っていた。
涼しい夜風が焚き火を揺らし、木々の枝のざわめき以外の音といえば、遠くで梟の鳴き声が時折聞こえるだけだった。
静かな夜・・・。それぞれの愛車が、焚き火の柔らかい明かりに照らし出されていた・・・。
初老の男性・・・と言っても、彼の風貌を説明するには、60歳前あたりの一般的な日本人男性のそれで説明するには不適切だった・・・。
長身の彼は病的に細く長い手足をしていた。Tシャツの袖から覗く二の腕は鶏がらのように細く、それでいてうっすらとしっかりとした筋肉に覆われていた。あまりに細い革パンから、両の足についても同じ様子である事が伺える。
こけた頬から顎にかけて、白い髭で覆われていた。年齢に似つかわしくない力強く、そして優しい瞳・・・。
話はいつしか、昼に出会った悪質運転のクルマの事になっていた・・・。
「どうしてあんな事するんでしょうか?」
「・・・さあてね?彼らからしてみれば、俺達は異質の人間なんだろうね・・・。」
・・・函館で出会った観光バスの旅行者が脳裏をよぎる・・・。
「キミはバイクに乗る前、近づき難いイメージが無かったかい?バイクにも、ライダーにも」
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258 :魔 棲 雄 〜マスオ物語〜:2006/06/18(日) 22:43:22 ID:fX2ox8UY
初めてカタナに目を奪われ、アナゴ君に出会った日の事を思い出す。
・・・確かに、バイクという乗り物はそれを知らぬ者からしてみれば、触れる事すら躊躇われる『特別な乗り物』という印象が強い・・・。
それは、街を走るほとんどの四輪車が、生活の利便性向上の為という存在理由からどうしても『日常感』を拭いきれない事からも逆説的に説明できよう・・・。
そう、バイクとは『非日常』といういわば『異世界』へと旅立つ為の乗り物である以上、その世界を知らぬ者にとっては近づき難い印象を持つことは、なんら不思議な事ではないのかも知れない・・・。・・・でも・・・だからと言って・・・。
「だからって、嫌がらせをすることは無いんじゃ・・・」
「人は、自分の理解の範疇を超える存在を、疎ましく思ったり排除したりしようとするもんさ。
それに、自分が乗る事の出来ない未知の乗り物で、気持ちよく風を切って走っている僕らがうらやましいのかも知れないな」
焚き火の中で、枝が跳ねた・・・。
「自分達の理解不能の人種を排除しようとしたり、持たざるものが持つものを妬ましく思ったり・・・。
それが時にして攻撃性に発展するあたり、戦争が起きる仕組みに良く似ているのかもな・・・。」
・・・僕は難しい話は良く解らなかった・・・。
しかし、僕は納得がいかなかった・・・。
彼が自ら被った、クルマからの嫌がらせに対し、まるで他人事のように話すその姿に・・・。
そういえばセドリックが彼の背後で挑発を繰り返す間も、彼は我関せずといった風に、全く意に介していなかったのを思い出した・・・。
・・・悔しくはないのだろうか。バイク乗りとして・・・。男として・・・。
気がつくと、僕は彼に対して率直な意見を述べていた。
「悔しくないんですか?僕は・・・悔しいです・・・。」
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259 :魔 棲 雄 〜マスオ物語〜:2006/06/18(日) 22:43:58 ID:fX2ox8UY
彼はおもむろにウエストポーチからバーボンの小瓶を取り出し、栓をあけながら言った。
「それで、キミはその度に今日のようにああやってやり返すのか?それこそ戦争の理論だな。何もあんな奴らのレベルに、自分から降りていく必要は無い・・・。」
僕の質問に答えず、そして諭すような彼の言葉に、僕は少し腹が立った。
「でもっ!」
そんな僕の言葉を遮るように、彼は僕の目の前にバーボンの注がれたショットグラスを突き出した。彼はグラスを僕に渡すと、もう一つのグラスに自らの分を手酌しながら言った・・・。
「楽しいからバイク乗ってるんだろ?バイク乗ってカッカしちゃいかん。な?」
そう言って微笑む彼の笑顔に、僕は次の言葉を失った・・・。
彼は僕の質問に対し、直接的な回答を何一つしていなかったが、それでも彼のその一言は僕の質問と苛立ちに対する、
遠く、そして確かな回答であるように思えた・・・。
その後、彼に様々な事を教わった。
酒の呑み方や、ロープの結び方。ネイティブアメリカンや北海道のアイヌなどの先住民族の豊かな文化・・・。音楽や映画・・・。人生経験豊富なその説得力あふれる言葉の一つ一つに僕は吸い込まれて
行った・・・。
連日の、バイク乗りではない人々から受けた後味の悪い思い出と、それらをきっかけに噴出していた憤りが、溶けるように消えてゆくのを感じた・・・。
不思議な人と過ごす不思議な夜は、満天の星空の元で過ぎていった・・・。
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260 :魔 棲 雄 〜マスオ物語〜:2006/06/18(日) 22:44:36 ID:fX2ox8UY
翌朝、テントの中で未だ深い眠りにつく僕の耳に、心地よいVツインサウンドが遠くに聞こえてきた・・・。
あまりにも心地よい、その心音の如く有機的な音を聞きながら、僕はしばしまどろんでいたが、ハッと我に返り、テントを飛び出す。
遅かった・・・。Indianの男性は立ち去った後だった・・・。
既に姿の見えなくなった彼が残した余韻の如く、Indian Chiefの駆けていく音が早朝のキャンプ場に響いていた・・・。
名も告げず、風のように去っていったその男・・・。不思議な人だった・・・。
たった一晩の出会いだったが、確実に僕はライダーとして大切な何かを貰ったような気がした・・・。
テントを撤収し、僕もまた今日一日の旅支度を整える。
大きなバッグをNinjaのリヤシートに括り付けている時、ふとバックミラーステーに何かが巻きついているのに気がついた。
アイヌ紋様らしきステッチの施された、ハンカチとしてはやや大きい布・・・。この大きさはバンダナだろうか?
一体、誰が・・・?そんな僕の疑問は、その布をほどき、広げたところで氷解した。
『Easy Go!』
サインペンで書きなぐられたアルファベットが目に飛び込んできた・・・。
・・・彼だ・・・。格好つけすぎだ・・・。僕は笑顔でそのバンダナを丁寧にたたみ革ジャンのポケットに押し込んだ・・・。
キャンプ場を後にして、僕はNinjaとともに風を切る。僕は思わずひとり呟く。
「・・・気楽にいこうぜ・・・。」
今日はどんな出会いが待っているのだろうか?