1-16 マスオ物語
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559 :魔 棲 雄 〜マスオ物語〜:2006/05/12(金) 00:02:49 ID:5J24y8wQ
マスオ物語外伝 〜アナゴ物語〜
俺の名はアナゴ。都内の商社で中間管理職に就く、しがないサラリーマンだ。
晴れ晴れとした週末の朝なのに、俺は非常に機嫌が悪い。
それは、今まさに巻き込まれている朝の通勤ラッシュの雑踏のせいじゃない。
なぜなら、取引先との契約書や請求書といった大事な書類を一通り入れておいた封筒が、昨日の夕方から
見当たらないからだ。
マズイ。マズイぞ。あれがないと部長に大目玉だ。
俺はいつも上司に食って掛かる厄介者の部下だから、そんな一方的な俺のミスを、部長はそれみたことかとばかりにがなり立てるだろうな・・・。
とりあえず、会社に着いたらもう一度、良く探してみよう。
俺は毎朝、電車を降りると会社に向かって歩き出す前に、駅の喫煙コーナーでハイライトに火を点ける。
出勤前の暖機運転ってところだ。こうしてタバコの煙を燻らせていると、心が落ち着いてくるんだ。
いいぞ、もしかしたら無くした書類を何処に置き忘れたのか思い出せるかも知れない・・・。
・・・営業先から帰ってきたときは、確かにあった・・・。会議室・・・か?それとも面会室か?そうだ・・・、思い出せ、思い出すんだアナゴ・・・。きた・・・、きた!思い出してきた!俺の書類!!
・・・結局、思い出せやしねぇ・・・。こんなうるさい駅の中でなんて思い出せるもんか!
フグタ君に聞いてみようかな・・・。
ん?フグタ君かい?そうだなぁ、もう学生時代から15年以上も付き合っている腐れ縁の同僚さ。
麻雀やら、お姉ちゃんのいる店やら、悪ぃ事はいつも一緒の悪友ってとこさ。
やっぱりフグタ君に聞くのはやめとこう。
あいつ、どうせ「しょうがないなぁ」とか「だらしないなぁ」なんて言って親身になって一緒に探してくれるんだ・・・。悔しいからフグタ君には聞かないでおこう。
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560 :魔 棲 雄 〜マスオ物語〜:2006/05/12(金) 00:03:26 ID:5J24y8wQ
どうせ会社に着くまではどうしようもない。
だったらトボトボ歩くより、何か楽しい事を考えよう。
そうだ、先週予約したカタナのファイナルエディションのことでも考えることにしよう・・・。
俺は、バイクが大好きだ。麻雀も女遊びも好きだが、バイクは別格だ。
バイクこそ俺の人生だ。もう、バイクの事を考えてるだけで心はウキウキだ。
バイクに乗ってる限り俺の青春は終わりはしない・・・。
そんなバイク大好きの俺が、拘りを持って乗り継いでいるのがスズキGSXカタナだ。
今乗っているカタナで4台目だから、ファイナルエディションで5台目ってことになるな。
それほどまでに根っからのカタナ党だ。
16歳で原付免許を学校に内緒で取って、タダ同然で手に入れたゴミ同然のハスラー50を乗り回してからというもの、俺はバイクにとり憑かれちまったわけだ。
17の時には中免を手に入れた。
GS400を乗り回しているのを先生に目撃されて停学さ。
それでも停学をいいことに、毎日峠に走りに行ったなぁ・・・。
そんな俺にとっての運命の出会いは、オートバイ誌で1980年に見たケルンショーに出展されたカタナのプロトタイプモデル。
もう背筋が震えるくらいその格好よさに痺れたね。
中免をとってすぐの頃だったけどすぐに、大型自動二輪免許を取ってこいつを手に入れてやると決心したよ。
そして、今でもカタナにベタ惚れの俺。俺の人生はカタナ抜きじゃ語れないぜ。
・・・そんな、大好きなカタナとの十数年の付き合いでひとつだけ辛い思い出がある・・・。
それは、5台の中で唯一の750cc。俺のカタナ人生で最初に乗ったGSX750Sカタナとの思い出。
俺が唯一、カタナに対して冒してしまった過ちの話さ・・・。
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561 :魔 棲 雄 〜マスオ物語〜:2006/05/12(金) 00:04:20 ID:5J24y8wQ
俺は浪人時代にそのカタナを手に入れたんだ。ふざけてるだろ?浪人時代だぜ?
そんなアルバイトと大型自動二輪免許取得への挑戦に明け暮れた浪人一年目。
そりゃ二浪もするよな。
そして二浪目の19歳の春、出たばかりの国内仕様ナナハンカタナを手に入れたんだ。
そりゃもう、速攻で耕運機ハンドルはセパハンに交換したし、国内仕様には着いていないスクリーンも取り付けたさ。
不思議と「カタナ狩り」の餌食にはならなかったな。
地元最速だったよ。もう有頂天だったなぁ。
本気で自分が世界で一番速いと信じてたもんなぁ。
そんな俺の前に一人の男が現れたのは、確か大学一年の梅雨の前の頃だったかなぁ?
そいつは、俺に憧れてバイクに乗り始めたんだと。
冴えない男だったんだ。でも、バイクの筋はよかったな。
半年も経たないうちに400ccのバイクで俺と同じペースで峠道を走るようになったし、その一年後にはあろうことか大型二輪免許を取りやがって、俺より格段に速いバイクに買い換えやがった。
誰かって?俺の悪友、フグタ君さ。
フグタ君のNinjaは速かったなぁ。
しかも、彼の速さはバイクに頼るだけの速さじゃないんだ。
たった一年の間に、あいつは俺にも劣らないテクニックを身につけていたなぁ。
その頃からさ、俺の自分の愛車に対する思いが微妙に変わっていったのは・・・。
焦っていたんだろうね。
当時、既にバイクに乗り始めて数年経っていた自分が、たった一年しか免許歴の無いフグタ君に並ばれ、置いていかれる事に・・・。
フグタ君とNinjaの後ろを走っているとね、あれほど速いと思っていたカタナがまるでハスラー50みたいにゆっくりに思えちまうんだ・・・。
それまで、俺の後姿を追っていた後輩ライダーが、いとも簡単に俺の前を走ってるんだ・・・。
正直、悔しかったし嫉妬もしたさ・・・。
それでも俺は、そんな自分の負の意識を彼に向けるような事だけはしなかったよ。
当時からフグタ君は本当にいい奴だったし、俺はこんな性格だからそんな気持ちを顔に出す事も無かったんだ。
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562 :魔 棲 雄 〜マスオ物語〜:2006/05/12(金) 00:05:08 ID:5J24y8wQ
だから、そんな悶々とした気持ちは心のどこかに積もり積もっていたんだろうな。
あれは忘れもしない・・・、
84年の8月・・・いや7月だったかな?ツーリングの帰り・・・いや8耐を観た帰りだったかな?まぁ、いいや。
とにかく、忘れもしない夏の深夜の東名でのことさ。
あの時、俺は1100ccのカタナを追い掛けてたんだ。
後ろにはフグタ君も居たよ。めっぽう速くてね。付いていくのが精一杯だったんだ。
だけど、同じカタナが相手だろ?俺より大きい排気量ってのが、逆に俺のヤル気に火を点けてね・・・。
・・・それに、カタナ同士のバトルってんで、フグタ君は遠慮してたんだろうな・・・。
やろうと思えば2台のカタナをゴボウにする事だって簡単だったはずなのに、彼は俺の顔を立てたらしくずっと後ろを走ってたんだ・・・。
・・・なんだか、その気遣いが逆に悔しくてね・・・。俺は向きになってスロットルを開けてたよ・・・。
200km/hは優に超えていたよ・・・。その日は、妙にエンジンも良く回るような気がしてね。超高速のバトルも相まって、完全にトランス状態だった。
俺は1〜2分程度だと思っていた・・・。後でフグタ君に聞いたら、その最高速領域で10分以上も走り続けていたらしいな・・・。
そして、やっちまったんだ・・・。エンジンブロー・・・。
頭は真っ白だったな。
オイルの掛かった太股が熱かったのは覚えてる。バイクを停めてしばらくは無言だった。
全部解っていたからね・・・。愛車を死なせてしまった責任が、全て自分にあることを・・・。
悔しさと嫉妬に支配されて、愛車に無理をさせてしまったこと・・・。
いや、本当はもしかしたらそうなっちまう事をどこかで解っていながら、その行き場の無い悔しさを愛車にぶつけてしまったのかも知れない・・・。
冷静になるにつれて、自分が愛車にしてしまった事の重大さが胸に押し寄せてきてね・・・。
オイルが滴り落ちる愛車の姿を正視できなかったのも、どこかに愛車に対する後ろめたさがあったからなんだろうな・・・。
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563 :魔 棲 雄 〜マスオ物語〜:2006/05/12(金) 00:06:36 ID:5J24y8wQ
・・・それが、俺がカタナにしてしまった唯一の罪さ・・・。
おっと、楽しい事を思い浮かべるつもりが、ついついこんな過去を思い出しちまったな・・・。
気分を変えて毎朝お決まりの路上のバイクウオッチングでもするかな。
お?前から走ってくるのはハヤブサじゃないか・・・。ふん!すり抜けのライン取りが全くなっちゃいないな!
俺とカタナの方がブッちぎりで速いぜ。
そっちのR1とファイヤーブレードも同じだ。今度、俺が稽古をつけてやる!
・・・あれは新型のCB1300SFだな・・・。
・・・CBの名前を聞くと・・・今でもいかんな・・・。いや、なんでもない。こっちの話さ・・・。
ここが俺の努めている会社、海山商事さ。
おっと、無くした書類の事を思い出した・・・。早速探さねば・・・。
フグタ君が朝から間の抜けた声でおはようと挨拶してくる。
・・・まったく、こいつが夜にバイクに跨ったら、とんでもないスピードで街を駆け抜けていくんだからな・・・。
人間、解らないモンだよ・・・。
机の引き出しから探すとするか・・・。昨日の夜も引っ掻き回したんだから、どうせ出てこないだろうが・・・。
ん?この封筒はっ!あった!あったよ!机の引き出しの一番上にあったよ、大切な書類!!
こんなこともあるんだねぇ。昨日、あれだけ探したのに全然視界に入っていなかったんだろうな〜。
いや〜、ヨカッタ、ヨカッタ。これで部長に小言を言われずに済むぜ・・・。
ん?なんだ?フグタ君、なんでこっち見てニヤニヤしてるんだ?気味悪いヤツだな・・・。
まぁいい、探し物が見つかって俺は上機嫌だ。
今日は週末。夜の天気も良さそうだ。こりゃ今晩は出撃だな。
朝一発目の社内メールはフグタ君宛て。
「今晩どうする?湾岸か?それともやっぱり三京か?
アナゴ 」