1-13 マスオ物語 

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726 :魔 棲 雄 〜マスオ物語〜:2006/04/12(水) 21:35:01 ID:zdPSYR+T
【SCENE51】
4台を見失わまいと、PA内にも関わらずフル加速するアナゴ君と僕。
フルバンクし、一気にPA出口へ向きを変える。

日昼は目視出来ない火花をステップから撒き散らし僕の前を行くカタナ。
カタナは高々とフロントタイヤを空に突き上げ、Ninjaは滑るように猛加速し、ともに本線上へ躍り出る。
・・・絶対に・・・絶対に、逃がすものか!!
誰の目から見ても、柔和で弱々しい印象の僕。
しかし、その時の僕は明らかに「男」の目になっていたであろう。

吹け上がるエンジン・・・。轟く排気音・・・。
それらバイクから放たれる躍動とともに、熱く滾る一匹の男としての僕達のプライドと血潮・・・。

・・・そう、僕達は若かった・・・。
向けられる悪意や嘲笑に対し愚直にぶつかって行く術しか知らず、またぶつかって行く事が出来た・・・。

年を経るとともに枯渇していく、そんなストレートな感情の激流。
その代わり身に付けていくであろう狡猾さや老獪さを否定するつもりは毛頭ないが、ただ素直にあの頃の若さが懐かしく、かけがえの無いものに思えるときがある・・・。
あの頃の僕達は不完全ながらも熱く燃え盛り、内に秘めたエネルギーで光り輝く若者だった・・・。

遥か闇の彼方に4台の後姿を確認した・・・。
奴らはスクリーンに深く潜り込み猛追する僕達の接近に気がついていないのか、至ってマイペースでクルージングしていた・・・。
この先、どこへ行こうというのか?湾岸線だろうか?
いずれにせよ、逃がしはしない!

4台は、首都高湾岸線へと続く本線を外れ、ICから一般道へ下りていく。
もはや僕達はそのバトルステージなどどこでも良いと思っていた。
それがどこであろうとも、スピードで奴らを凌駕してやろうと思っていた。

国道に下りた彼らは、すぐに反対車線のICに入っていく・・・。
そこで僕らは彼らがどこへ行こうとしているのかを理解した。
それは保土ヶ谷から東京方面へ向かう第三京浜上り線。
再びの第三京浜・・・。望むところだ、ステージに不足は無い!


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730 :魔 棲 雄 〜マスオ物語〜:2006/04/12(水) 22:16:29 ID:zdPSYR+T
国道から再びICに吸い込まれていく4台の後姿がみるみる迫る。
その時点で最後尾の750SSマッハのライダー・・・、
アナゴ君に対し挑発的なハンドサインを送った張本人が、後ろから迫る僕達の姿をバックミラー越しに確認する。
すぐに振り向いて、直接目視で僕達の接近を確認するライダー。
彼は僕らの姿を確認すると、クラクションで前方を行く3台の仲間にその事態を報せる・・・。

一瞬の間の後、4台の敵機は一気にスピードを上げ第三京浜上り線に吸い込まれていく。
加速車線上で既に本線上を往来する一般車両を遥かに上回る速度に達する、敵機4台とカタナとNinjaの計6台。
猛烈な勢いで先細っていくゼブラゾーン・・・。そして僕らは狂気のスピードで第三京浜の上り本線上へ放たれた・・・。

速度は既に180km/hを超えようとしている。この時点で前を行くマッハの速度上昇が鈍る。
1970年代前半、当時の最速ランカーだった往年のビッグ2stマシンも、200km/h以上をコンスタントにマークする僕らに敵うはずなど無い。

敵機4台の最後尾で煙幕のような紫煙を噴出しながら走るその殿軍を早いところ料理しなければ、その前を行く3台に取り返しの付かない溝をあけられてしまう・・・。

アナゴ君は躊躇することなく煙幕を飛び出し右側から、マッハに並びかけた・・・。その時だ。
マッハはまるでそのアナゴ君の動きを読んでいたかのように、同じく右側へ針路変更。再び煙に巻かれるカタナ。
交錯するカタナとマッハの走行ライン・・・。接触する!危ない!!


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731 :魔 棲 雄 〜マスオ物語〜:2006/04/12(水) 22:17:03 ID:zdPSYR+T
点灯するカタナのブレーキランプ。そして、さらに右側の第三車線まで回避行動するアナゴ君。
なんてヤツだ・・・、まるで見計らったかのようにマッハはアナゴ君の進路を塞いだ・・・。
ただの威嚇ではない・・・、アナゴ君が回避しなければ確実に接触していた・・・。
噂には聞いていたが、その悪質さは相当のものだった。

アナゴ君が激昂しているのは、彼の後姿から見て取れた。
緩やかな左コーナーで大外から再びマッハに追い抜きをかけるアナゴ君。
その追い抜きざま、アナゴ君は先刻その相手にされたのと同じように左手中指を突きたて返す。
僕もまた、コーナー立ち上がりで一気にマッハをパスする。
バックミラーの中で小さくなってゆくマッハのヘッドライト。残念だが、前座を相手にしているヒマは無い・・・。

さぁ、ここからが本番だ。
本丸攻略に向け、僕達は残る3台を追う。


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813 :魔 棲 雄 〜マスオ物語〜:2006/04/16(日) 01:16:34 ID:KSKiI13r
【SCENE52】
不夜城東京の灯りに照らされ、深夜にも関わらず目視可能な厚く垂れ込めた雲・・・。
湿気を含んだぬるく重い梅雨時の空気・・・。その中を一般車両を縫うように走る5台のバイク・・・。
敵機3台のテールランプがスクリーン越しに迫る。

僕と奴らの間に鎮座するNinjaのスピードメーターの針が200km/h目前であることを視界の片隅で判断する・・・が、もはやそんな『数値』などどうでも良い。
今は奴らの前に出ることにこそ意味があったからだ。

等間隔で迫っては消え行く道路灯・・・。
矢のように足元を飛び去る路上のホワイトライン・・・。
遥か彼方からゆっくりと近づいてくるように見えた道路表示板は急激に加速度を増し、そこを通過する頃にはもはや内容の判読すら叶わないほどの速度で後方に吹き飛ぶ・・・。

そんな闇の超高速領域の中で、脳が認識する景色は無機質に抽象化され、まるでSF映画でも見ているかのように希薄な現実感・・・。
しかし、カウルに潜り込んでいるとヘルメットが空気を切り裂く音が小さくなる替わりに、股下で不気味に唸るエンジン音だけが良く聞こえ、それは紛れも無く死と隣り合わせの狂気の世界に自らが身を置いている事を報せる・・・。

前を行く敵は、殿軍が攻略された事を知ると速度を上乗せする・・・。確かに奴らは速い・・・。
その命がまるで惜しくないかのようにコーナーへ飛び込んでゆく・・・。

2車線、時には3車線を大きく使い、速度を殺さぬライン取りでコーナーの先の闇へと吸い込まれてゆく・・・。相対速度では優に100km/hを超えるであろう一般車両をまるでパイロンのように縫って走る。

大きな体と大きなアクションに、大型バイクの巨体はいとも簡単に操られる・・・。
そのライディングは繊細かつ大胆であり、先入観として知っている狼藉者としての彼らの一面を差し引いても、目を瞠るものがあった・・・。


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815 :魔 棲 雄 〜マスオ物語〜:2006/04/16(日) 01:17:42 ID:KSKiI13r
それでも僕達も負けてはいなかった・・・。
コーナーや一般車の処理・・・、あらゆるシチュエーションにおいて決して彼らに置いて行かれる事はなかった。
常に彼らの背中を射程圏内に収めていた・・・。

しかし、厄介だったのは先頭を行くVF1000Rの露払いの如くその後ろを走るCB900FとZ1000Rの二台が非常に巧みなブロックを仕掛けて来る事であった・・・。
時に2台が連携した巧みなポジション取りで、コーナーにおいては常に僕らのイン側を陣取る彼ら。
なかなか前に出させてはもらえなかった。
さすがに軍人・・・。その統率の取れた走りに僕らは封じ込められていた。

それでも僅かな隙を突き、あるコーナーでアナゴ君は果敢に奴らのインに飛び込んで行った。
コーナー出口で露払い2台の前へ出るアナゴ君・・・。しかし、少なからず無理をしてイン側を手に入れた代償としてやや失速気味にコーナーを立ち上がるカタナを、2台の敵機は事も無く抜き返していく・・・。

対して僕はストレートでの勝負を狙う。単純に高速性能だけで言えば、CB900FにもZ1000Rにも負けるはずは無かった・・・。
しかし、事はそう簡単に進まなかった・・・。
Ninjaの身体能力を解き放つには、あまりにも一般車両が多かったのである。

何故こんなにもクルマが多いのか・・・。
幾度もコーナー立ち上がりでスロットルを大きく開けるも、3車線全てに満遍なく分布する一般車両の群れを縫って走るには、せいぜい200km/h強が限界。
Ninjaの優位性を活かして走れる状況に無かったのだ・・・。

想像以上に彼らは速かった。そして道路状況も決して僕らに味方してはいなかった。
決して僕らは彼らにひけを取っているわけでは無かったが、それでも前に出るとなると決定的な何かを欠いていた。
そして都筑ICを過ぎる・・・。もうこんなところまで来てしまったのか、時間が無い・・・。
全長16km強の第三京浜。平均時速200km/hで単純計算すると全行程を走りきるのに5分も掛からない・・・。
僕らは露払い2台に封じ込まれ、時間を掛け過ぎてしまっていた・・・。
例え2台をパスしたとしても、さらに速いと思われるリーダー格のVF1000Rを追い落とすにはそろそろ時間が足りなくなっていた・・・。


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817 :魔 棲 雄 〜マスオ物語〜:2006/04/16(日) 01:18:27 ID:KSKiI13r
そのままのペースでパトカーを含めたクルマの群れを掻い潜り、抜け出す。
当然の如く、バックミラーの中の風景を赤く染め回り出すパトライト。
しかし、ヨンフォアの頃に恐怖の対象だったその真っ赤な回転灯はいとも簡単にバックミラーの中で小さくなり、そして消えてゆく・・・。

パトカーをやり過ごすと、一気にクルマの数が減る。
すると膠着状態に動きが出た・・・。

再びイン側を奪おうと試みるアナゴ君にCB900FとZ1000Rが注意を奪われたその一瞬・・・。
僕は最もアウト側から、いち早く立ち上がり後のストレート上がクリアな状態である事を確認する。
コーナー立ち上がりからストレートに向け、僕はスロットルをワイドオープン。

やっと訪れたその瞬間・・・。Ninjaは持てる力を一気に解放する。
2台の敵機はゆっくりと手繰り寄せられるように近づき、並び、そしてNinjaの後方へ・・・。
続いて迫るVF1000Rの後姿・・・。捉えた!と思った、その時だ。

Ninjaのスクリーンを叩く音・・・、そして水滴・・・。雨だ!
確かに今は梅雨・・・。しかし、だからと言ってあまりに悪いそのタイミング・・・。
天すら僕らに味方しないのか?

そして、雨足は一気に強くなる・・・。見る見るうちに黒く濡れてゆくアスファルト・・・。
しかも、東京側は少し前から降っていたのだろう、既に水溜りまで発生していた・・・。

バトル終結のタイミングを掴めないまま、それでも緩めざるをえないスロットル・・・。
抜いたはずの敵機2台が僕の横を通り抜け、再度VF1000R後方の定位置に着く。

・・・このままバトルを続けるのは危険だ・・・。
僕の左斜め後方で、未だやる気を失っていないアナゴ君をハンドサインで諌める・・・。
そうしているうちに、すぐに目の前に料金所の緑の灯りが近づいてきた・・・。
そして、不完全燃焼のまま僕らは玉川料金所に辿り着いたのだ・・・。


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818 :魔 棲 雄 〜マスオ物語〜:2006/04/16(日) 01:19:42 ID:KSKiI13r

料金所手前の路側帯で停車する敵機3台。そして振り返る3人の軍人・・・。
彼らの後方30m程のところに停車した僕らと、バイクに跨ったままの状態で睨み合いとなった・・・。
ますます強く降りつける雨に打たれながら睨み合う5人・・・。張り詰めた空気が流れる・・・。
CB900Fのライダーがバイクを降りる素振りを見せ、緊張は極限状態になった・・・。

そんな一触即発の空気の中、後方から迫るバイクのヘッドライト・・・。
マッハのライダーだろうか・・・。4対2では全く勝負にならない・・・。袋叩きに合うのがオチだ・・・。
アナゴ君はともかく、全くケンカ慣れしていない僕は内心怯えきっていた・・・。

しかし、そのバイクはマッハでは無かった・・・。
睨み合う僕らと奴らの間に滑り込んで停まったのはCB1100R・・・。鈴木さんだった・・・。
彼もまた、奴らに視線を送る・・・。
CB900Fのライダーは、バイクを降りるのを止める・・・。

激しく降りつける雨で煙る玉川料金所。
睨み合う3人のアメリカ人ライダーと、3人の日本人ライダー・・・。
そんな緊迫した空気を破ったのは、やっと追いついてきた甲高い2サイクルエンジンの排気音と、先刻追い抜いてきたパトカーのサイレン音・・・。

合流してきたマッハの姿を確認すると、VF100ORの男はハンドサインで仲間に命令を送る。そして彼らは第三京浜から去って行った・・・。

そして後方から迫る赤色灯・・・。鈴木さんが叫んだ。
「僕らも行くぞ!今日のところはお開きだ!」

・・・あまりにも熱く、そして不完全燃焼のまま僕とNinjaの初夜が終わった・・・。


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