1-12 マスオ物語
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654 :魔 棲 雄 〜マスオ物語〜:2006/04/08(土) 23:37:24 ID:wfrplY6P
負けたほうが缶コーヒーを奢る・・・。
アナゴ君も同じ事を考えていたのか。やはり気の合うヤツだ。
僕はNinjaに跨ったままヘルメットを脱ぎ、漆黒の空を仰ぐ。
フーと深呼吸をする。
十数分振りなのに妙に懐かしくそして安心する、地面に足を付く感覚。
緊張と加減速Gでこわばっていた全身の筋肉から力が抜けていく・・・。
「ほら!早くしろよ!」
「わかった、わかった!」
コーヒーを急かすアナゴ君の言葉に、僕は敗北を否定せずそう答えた。
ハイライトを吹かし始めたアナゴ君をその場に残し、自動販売機へ向かう僕と鈴木さん。
僕はついさっきまでの高速バトルを思い返していた。
負けたのは悔しいが・・・、やはり楽しい。バイクは本当に楽しい・・・。
手の平に残るNinjaの振動の余韻を感じつつ、僕の心はこれまでに無いほど満たされていた。
「やっぱり速いなキミは。とても今日初めてNinjaに乗ったとは思えないよ」
「でも、ちょっと危なかったですけどね」
そんな会話を鈴木さんとしながら、自動販売機で目的を果たす。
バイクの元へと帰る途中、ここ保土ヶ谷PAの雰囲気が以前ヨンフォアで来たときと少し異なる事に気がついた。
なんだか・・・独特のアンダーグラウンドな危険な香りが鳴りを潜め、わずかに緊張で張り詰めたような空気を感じた。
半年前、ヨンフォアでここに来た時、僕はその危険な空気の中で少し怯えていた。
トイレでは柄の悪い走り屋二人に絡まれそうになり、危ういところを鈴木さん達に助けられたりもした。
・・・しかし、今日は違う・・・。
周りを見回すと、強面のバイオレンス系の走り屋集団も確かにたむろしているのだが一所にかたまり、そしてその会話の声も小さい・・・。まるで何かに怯えているようにも見えた。
アナゴ君の元に戻ると、彼はタバコの煙を吐き出しながらPAの一箇所を見つめていた。
僕と鈴木さんが戻った事に気がつくと、アナゴ君は顎をしゃくってその場所を指し示す。
「・・・鈴木さん、あいつらだ・・・。今晩も来てやがる・・・。」
保土ヶ谷PAの片隅、街灯の下。そこには4台のバイクと、そこに集まる屈強な4人の外国人の姿があった・・・。
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688 :魔 棲 雄 〜マスオ物語〜:2006/04/10(月) 22:26:32 ID:WG75dEwS
【SCENE50】
街灯に照らされ浮かび上がる4台のバイク。
750SSマッハ・・・、CB900F・・・、Z1000R・・・、そしてVF1000R。
そして、その傍らにはそれらの主とおぼしき4人の外国人・・・。
彼らが噂の米兵である事は、アナゴ君の説明を待たずとも理解できた。
我々日本人にとって、外国人の年齢は見た目で判断が付きにくいものだが、長身の黒人と二人の白人は
二十代半ばといったところだろうか・・・。僕達とそう変わらぬ年頃に見えた。
そして、短い顎鬚をたくわえたおそらくリーダー格と思われるその白人男性は30歳程度に見える・・・。
確かに近づきがたい迫力を持っていた。
タダでさえ特に当時の日本人はまだ外国人コンプレックスを多分に持っていたが、それが無くても軍の訓練を受けているであろう、その屈強な筋肉質で巨大な体を持つ男達は近づきにくい存在だった。
彼らはタバコを吹かし、時にコーラを飲みながら談笑していた。
その彼らの雰囲気が何とも気に喰わなかったのは、明らかに彼らのその笑いの矛先が、周囲の日本人に向けられたもののように見えたからだ。
彼らは時折周囲に目線を送り、一つ二つ言葉を発したかと思うと、ギャハハハと言った下卑た笑いを一斉に放つ・・・。
笑われているのが僕らなのか、僕らのバイクなのかは解らなかったがいずれにしても非常に不愉快なものだ・・・。
そんな中で、リーダー格の髭の男だけが、ほとんど笑わず口も開かず、仲間の話を聞くでもなく聞いているように見えた。
保土ヶ谷に集う、一見アウトローな日本人ライダー達は、そんな4人の米兵を直視する事も無く、斜めに目線を送り、小さくなっていた。
米兵達の不愉快極まり無いその態度に反抗心を剥き出しにするものなど居なかった。
・・・そう、たった一人の男を除いて・・・。
僕の目の前のアナゴ君は、真っ直ぐに4人の外国人を見据えていた・・・。
彼の口から時折吐き出されるタバコの煙の向こう側に、しっかりとその狼藉者を見据えていたのだ・・・。
僕はそんな彼の挑戦的態度を前にハラハラしていた・・・。
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693 :魔 棲 雄 〜マスオ物語〜:2006/04/10(月) 22:57:59 ID:WG75dEwS
アナゴ君の挑戦的な目線に気がついたのか、4人のうちの一人があからさまにこちらを指差し仲間に何か言う。
そして一斉に起きる笑い声。
「・・・!!」
拳を握り締め、彼らに向かって一歩目を踏み出そうとしたアナゴ君の腕を掴み止めたのは鈴木さんだった。
「アナゴ君・・・。よせ・・・、よすんだ。落ち着け・・・。」
アナゴ君はそんな鈴木さんの制止を寸でのところで受け入れる。そう・・・、腕力で彼らに敵うわけが無いのだ・・・。
それにしても腹立たしい・・・。
アナゴ君が鮒田食堂で彼らの話を僕にしてくれた時、ものすごく悔しそうな顔をしていたが、実際にその空気の中に身を置いてみると、その気持ちは痛いほど解った・・・。
僕はケンカなど全く縁が無くこれまで生きてきた優男だ。
しかし、そんな僕でも彼らの傍若無人ぶりにはらわたが煮えくり返るような思いだった。
週末の熱く楽しいバイクでのひと時。
そんな雰囲気を無粋にもぶち壊す彼らの振る舞い・・・。
そして、それに対して何もする事の出来ない自分の不甲斐なさ・・・。
全てに腹が立っていた・・・。
そんな4人の外国人はリーダー格の髭面が何かを言ったかと思うと、それぞれのバイクに跨りだした。
その髭面の男はその中で最も最速と思われるVF1000Rに乗る。
どうやらこの場を去るらしい・・・。腹立たしさと安堵感の入り混じった気持ちの悪い心持ち。
しかし、その場はこれで終わるように思えた・・・。その時である。
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695 :魔 棲 雄 〜マスオ物語〜:2006/04/10(月) 22:58:55 ID:WG75dEwS
保土ヶ谷から去ろうとする4台のバイクの列。その最後尾の男が周囲のライダー・・・いや、明らかに僕らに向けて左手中指を空につき立て、挑発的ポーズを取ってきたのである。
それは、先刻から彼らに挑戦的目線を向けていたアナゴ君へのものである事は明らかだった・・・。
「ヤロウッ!!」
言うが速いかカタナに跨りセル一発でエンジンを始動するアナゴ君。
・・・そして、何故か僕もヘルメットを即座にかぶりNinjaの上に居た。奴らを許せなかった・・・。
優男だったはずの僕。しかし、バイクでならその売られたケンカを買う事が出来た・・・。
アナゴ君の気迫にあてられたのだろうか?これほどまでに好戦的気分になったのは初めてだった。
まだ4台のエキゾーストノートが聞こえるほどの短時間で、カタナはスクランブル発進。その直後に僕も続く。
「アナゴ君!フグタ君!待てっ!!」
そんな鈴木さんの制止の言葉は、今度は全く僕らの耳に入らなかった。
周囲のライダー達はそんな僕らをただ
立ち尽くして見送るだけだった。
必ず・・・必ず、一泡吹かせてやる!!