1-11 マスオ物語 

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533 :魔 棲 雄 〜マスオ物語〜:2006/03/31(金) 23:51:37 ID:W72IquLW

第三京浜にはまだ早い。日没直後の空はまだ薄っすらと明るい。
僕らは、第三京浜に上がる前に鮒田食堂で腹ごしらえをした。腹が減っては戦は出来ない。
半年間のブランクのある僕は、そこで最近の第三京浜の実状を聞いた。

「最近、第三京浜にちょっと問題のある連中が出没しててね・・・」
鈴木さんが、味噌ラーメンをすすりながら言う。
「米軍の連中だ。奴ら、コースでも保土ヶ谷でも我が物顔で振舞ってやがる・・・。いまいましい連中さ・・・。」
アナゴ君が苦虫を潰したような顔でそう言った。

二人の話をまとめると、春先頃から4人のおそらく横田基地所属と思われる4人の米兵がときおり現れるようになったらしい・・・。
彼らはあまりに悪質な運転をするという。
一般四輪車を驚かすような急激な針路変更や、ギリギリの追い越し。

同じバイクの走り屋に対しても、後続車に対しての意図的な急ブレーキ、先行車への執拗な煽り行為。
保土ヶ谷に集う血気盛んな何人かは腕っぷしで彼らに挑んだそうだが、ただでさえ大男のそのアメリカ人達は普通の人間ではない。
世界最強の軍隊の訓練を受けているのだ・・・。
当然ながら返り討ちにあい、中には病院送りになったものまでいたという・・・。

「あいつら・・・日本人をバカにしてやがるんだ・・・」
アナゴ君は悔しそうに呟いた。
自分達が愛した場所で好き勝手の狼藉を働く彼らを許せない・・・がどうしようも無い・・・。
そんな悔しさがにじんでいた。


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534 :魔 棲 雄 〜マスオ物語〜:2006/03/32(土) 00:22:24 ID:rRotlvIe
今でも、在日米兵の引き起こす事件と言うのはときおり表沙汰になり問題となっているが、当時は今と比べ物にならないほどその状況たるや酷いものであった・・・。

横田基地のある福生の他にも関東で言えば横須賀など、在日米軍基地がある場所はそれでも活況に沸いた時期がある。
朝鮮戦争やベトナム戦争の中継地点となったそれらの基地周辺は、明日の命の行方すら解らない米兵達が自暴自棄的にばら撒くドル紙幣の恩恵をうけてはいた。

もともと占領軍として日本に入ってきた彼ら。日本人を自分達と対等の目線で見るものは少ない。
特に酒の入る夜の街で彼らの悪行は当時から問題となっていたが、それでもそれ以上に地域を潤す金の力を背景にそれらは半ば黙認されていた。

しかし、ベトナム戦争も終わりかけの1973年。
日本が変動為替相場制に移行してから状況が変わる。
それは彼らが日本でする買い物の値段が、2倍から3倍になったということである・・・。
・・・ビール一杯がそれまでの三杯分の値段になった・・・。
歓楽街から客としての彼らの足は遠のき、そして野蛮な鬱憤が爆発する・・・。

東アジアの安全と平和の為に、来たくも無い極東の島国に送られて来て、しかも命がけで戦争をしているというのに、いきなり物価が3倍に・・・。
そんな彼らの憤りは暴力的な形となって地域住民に向けられた。
傷害・・・強盗・・・強姦・・・。
国家と軍隊という組織に守られ、そんな彼らの犯罪が明るみに出ることは決して無かった・・・。

その当時、ベトナム戦争終結から既に10年近くが経っており、米兵による犯罪のピークも過ぎてはいたが、それでも彼らの日本人に対する目が対等でない事は窺い知れた。
そんな日本人に対する米兵の悪行の一端として、第三京浜にもその火の粉が飛んできたのだろうか・・・。

鈴木さんが最後に言った。
「悔しいが・・・彼らは、速い。腕っぷしでは敵わないかもしれないが、せめて走りで・・・一泡吹かせてやりたい」


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549 :魔 棲 雄 〜マスオ物語〜:2006/03/32(土) 23:09:21 ID:OxeteJgK
【SCENE45】
3台の大型バイクは闇の東京を行く。
つい先ほどまでのバイク初心者の少年を引き連れた行儀の良い走行はなりを潜め、慢性的渋滞の環八を
クルマの群れを縫うように進む。
まるで無線で話し合っているかのようにシンクロしあう3台。
信号が青になるとたくさんのヘッドライトはバックミラーの中でみるみる小さくなり、同時に前方の真っ赤なテールライト群が一気に迫る。
その群れに飛び込み、一台一台を丁寧に大胆にパスしていくと、またしばしのオールクリア。
そんな走りを繰り返していくと、ほどなくして第三京浜玉川ICに到着する。

玉川IC手前。目黒通りと交差する等々力不動前交差点の赤信号で停車すると、右に並ぶアナゴ君が僕に叫ぶ。

「フグタ君!勝負だ!まだキミに負けるつもりは無いからな!」

これまで各地のワインディングを2台で何度もランデブーしてきたが、それは勝負というものではない。
アナゴ君がこれほどまでに露骨に僕に勝負を挑んできたのは初めてのことだった・・・。
僕の横に並ぶGSX750Sカタナに、一年ほど前ふと目を奪われたのが全ての始まりだった。
まるで別世界の乗り物のように僕の目の前に佇んでいたその美しい巨躯と、羨望の眼差しを送ったその乗り手が、
今まさに中型二輪からステップアップしてきた僕を一対一の『ライバル』と認め、勝負を挑んできてくれたのだ・・・。
・・・僕の心は熱く滾り始めた・・・。望むところだ!相手に不足は無い。

僕はアナゴ君の宣戦布告に対して、左手でサムアップを送る。アナゴ君はヘルメットのバイザーを下げ、やはりサムアップで応えてきた。
アナゴ君はもう僕より大きなバイクに乗る先輩ライダーではない。僕達は対等なライバル、そして親友。

シグナルはブルーに。僕達は目の前に近づく玉川ICに進入していった・・・。


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578 :魔 棲 雄 〜マスオ物語〜:2006/04/03(月) 22:41:21 ID:LqzgacFc
【SCENE46】
初めてアナゴ君と一騎打ちをする事になった僕。
そんな僕は、心のどこかで『負けは無い』と思っていた。
その理由は僕のNinjaがアナゴ君のカタナに対して最新型であったり排気量が上回っていたりするという極単純なものだった。
しかし僕は思い知る。多少のマシンの性能差であれば吸収してあまりある『ストリート』の不思議と奥深さを・・・。

玉川ICから緩やかに左旋回していく。
先行するアナゴ君が一瞬速くコーナーの終わりを確認し、フル加速していく。

僕はあえてシフトアップせずにローで旋回していた。
未だ試していないNinjaのフル加速を確認する為だ。
アナゴ君のカタナに続き、僕もスロットルをゆっくりと大きく開ける。タコメーターの針がレッドゾーンを指し示す一瞬前にスロットルはストッパーに当たる。

もてる力を解放され雄叫びをあげるカワサキ水冷900cc。
たちまち希薄になるフロントタイヤの接地感。
・・・いや、これはすでにタイヤがアスファルトを捉えていない、という事を視界にスクリーンとメーターがせり上がって来たことで気づく。・・・いともあっさりとパワーリフト。

初めてのフロントアップにやや面食らい、スロットルを大きく戻しセカンドにシフトアップ。
すると、その隙を見逃すはずもない鈴木さんのCB1100Rが右側からゆっくりと僕を抜いていく。

ヨンフォアの頃なら、この時点で先行する大型バイクの加速を見せ付けられ戦意を失うところだが、今日は違う。
アナゴ君も鈴木さんもNinjaのパワーにやや驚いた僕より先行してはいたが、その背中は手を伸ばせば届きそうなところにある・・・。
そう、僕が乗っているのは最新型の世界最速バイク・・・。置いて行かれはしない!

速度が乗っていく・・・。
ヨンフォアのエンジンが喘ぐように搾り出していた最高速領域を、Ninjaのスピードメーターの針は一切の躊躇無く通り過ぎていく。
Ninjaにとってそれは単なる通過点でしかなかった。
美しく、そして暴力的に景色は溶解しNinjaの後方へ飛び去っていく。

ヘッドライトに照らされる一瞬先の未来は、次の瞬間バックミラーの中で、もはや戻らぬ過去となり闇に吸い込まれ消えていく・・・。
Ninjaは僕を未知の領域へ誘う・・・。4速にシフトアップした頃、180km/hを超えた・・・。


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580 :魔 棲 雄 〜マスオ物語〜:2006/04/03(月) 23:23:12 ID:LqzgacFc
・・・そう・・・これだ、この感覚だ・・・。僕は間違っていなかった・・・。
僕は半年間、欲してやまなかったものを手に入れられた事を確信していた・・・。

メーターの針が180km/hを超えたころ、僕はその速度感がこれまでのものと異なる事に気がついた。
硬い・・・。そして鋭い・・・。
前方から襲い来る空気の壁にそう感じる事は既にヨンフォアの時に体験済みだ。
しかし・・・まさか、それが飛び去る景色にまであてはまろうとは・・・。

フロントカウルとスクリーンの絶大なる恩恵を受け空気の壁に苦慮する事は無くなったが、だからこそ落ち着いて感じる事の出来る『速度』に対して、初めて恐怖が鎌首をもたげた。
恐ろしい・・・。足元では、もはや肉眼で捉える事すら不可能なほどの速さでアスファルトが流れていく・・・。
文字通り、死と紙一重・・・。

それは夜の闇のせいでもあった。
この位の速度域ともなると、日中との速度感の隔たりは凄まじく大きい。

既にしばらく前から僕はヘッドライトをハイビームにしていたが、その照射範囲をもってしても200km/hに迫ろうとするスピードではやや能力不足だと感じた・・・。
そしてメーターの針は200km/hを指した・・・。
怖い・・・、怖いのだが・・・最高にエキサイトする!
恐怖と快感、という通常であれば相反する感情を一つの悦楽として楽しんでいる僕がいた。

しかしそれでも、この暗さの中で200km/hという速度では、スロットルをおいそれと開け増すことなど出来ない。
僕はその速度を維持しようとしていた。
が、先行する2台、特にアナゴ君はまだまだ速度を上乗せしていく。

「マジかよ・・・」
僕はヘルメットの中で呟いた。
そして、第三京浜に上がる前のアナゴ君からの勝負の申し出を思い出す。
そうだ・・・。これしきの事で置いていかれるわけには行かない・・・。僕はスロットルをさらに開けた。

するとこんな速度であるにも関わらず、Ninjaはハッキリとした加速Gを僕に与え再び速度の上乗せを開始する。
僕はその秘められたポテンシャルに驚くとともに感激する。
210km/h。前を行く鈴木さんは、もうこれ以上スピードをあげるつもりは無いように見えた。
一瞬ためらったが僕は鈴木さんを抜き返す。
ゆっくりとバックミラーの中で小さくなるCB1100R・・・。
僕の前には、もうアナゴ君しか居ない!


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604 :魔 棲 雄 〜マスオ物語〜:2006/04/04(火) 23:58:17 ID:HOhY3Cjl
【SCENE47】
スピードメーターの針が220km/hを指す少し前。
アナゴ君のカタナの速度上昇が頭打ちになった。
スロットルを開けるのを止めたのか?いや、おそらくこれが750カタナの限界領域なのだろう。

Ninjaはまだ余力がある。
しかしこちらもまた、ハード的に限界に達していなくても人間的にはほぼ限界だった。

これが昼ならまた話は違う。最高速すら視野に入れた走りをしていたであろう。
しかし、今は夜・・・。ハイビームのヘッドライトですら、その照らす先に不足を感じるような速度。
まるで、暗闇の壁に飛び込んでいくようだ。

もはや、その流れる景色の速さに充分に目が付いていかない。
視野は極端に狭くなる・・・。
もし万が一、路上に落下物があったとしたら、避ける暇も無くアウトであろう・・・。

それは、さながらロシアンルーレットのような狂気のクルージング・・・。
それでも僕は、恐怖を上回る快感の中にいた・・・。
ワンミスで全てが終わるその世界。
そんな状況が楽しくて楽しくて仕方が無かった・・・。
人に「それは病気だ」と言われれば、胸を張って否定できない事は解っていた・・・。

ヨンフォアでの高速走行では、常に意識がバイクの先を走っていた。
それは時にもどかしさを生んだ・・・。
だが、Ninjaの持つ身体能力は、完全に僕の意識の先にある・・・。
欲しい速度がいつでも手に入る、その快感・・・。
もどかしさなど微塵も無い。無限に湧き出るかのようなパワー・・・。欲しいままのスピード・・・。
僕は完全にスピードの先にいる『悪魔』の虜となっていた・・・。

そして僕はアナゴ君を抜いた・・・。
僕自身も精神的に限界が近かったが、バイクに余力を残したまま彼の後塵を拝するのは我慢できなかったからだ。
この高速領域で、僕は初めてバックミラー越しにカタナのフロントカウルと、そこに潜り込むアナゴ君の姿を見た。
遂に僕は、羨望の眼差しで見たカタナとそのライダーの前を走ることとなったのだ。

しかし・・・、ここからが問題だった。アナゴ君を置き去りにするのは、至難の業だったのだ。


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606 :魔 棲 雄 〜マスオ物語〜:2006/04/05(水) 00:00:53 ID:9JJ25jBU
速度は230km/hに迫る。
バックミラーの中で少しずつ小さくなるカタナ。
僕は加速を止め、その速度を維持しようとしていた。
しかし、深夜の超高速領域ではそれすら難しい事である事を僕は知る。

以前、ヨンフォアで走った第三京浜と何かが違う・・・。そう、これではまるでワインディングだ・・・。
僕は、第三京浜とは直線で構成された道路だと思っていた。
一般的な速度で走れば・・・、いやヨンフォアで最高速アタックをしていた時においては、その認識も誤りでは無かっただろう・・・。
しかし、200km/hを超えるこの超高速領域では、それまであまりにも緩やかでコーナーという認識すら無かったコーナーが、まるで峠道のように迫る・・・。
しっかりと「コーナーリングをする」という意思を持たなければその速度のまま進入していく事など出来ない。

もはや速度の維持どころではない。
迫る超高速コーナーを前にして、僕はスロットルをやや緩める。
直進している時とは異なる不気味な小振動を前後足回りから感じる・・・。

そしてコーナーを抜けると、あれほどまで引き離していたと思っていたカタナのヘッドライトがバックミラーの中で大写しになる。
次のコーナーまでに再びカタナの引き離しを試みるが、やはり立ち上がりではカタナはすぐ背後にピッタリと付いている・・・。
それは、アナゴ君がその超高速コーナーを僕よりも速いペースでクリアしているという事実に他ならなかった・・・。


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608 :魔 棲 雄 〜マスオ物語〜:2006/04/05(水) 00:03:16 ID:9JJ25jBU
先が闇で見通せない超高速コーナー。その先では、死神が待ち伏せしているように思えた・・・。
そして、ここ第三京浜においては、僕より先んじて半年の間通いつめていたアナゴ君に分があった。彼はどの程度の速度でコーナーに進入すれば死神の餌食にならずに済むのかを知り尽くしていた・・・。

あるコーナーで、僕は恐怖に心を囚われてしまった・・・。思わずスロットルを大きく戻す。
旋回トルクを失ったNinjaはコーナー外側へ膨らんでゆく・・・。硬直する体・・・。
アウト側に固定された視線の先、キロポストの陰で死神が手招きしているように見えた・・・。
完全な失速・・・。
そして、そんな僕のイン側を再びアナゴ君とカタナが僕の前へ出るためにすり抜けていく・・・。
ちょっと待ってくれアナゴ君・・・。
なんてバンク角だ。僕らは一体、何キロ出していると思っているんだ!?

あの日、ターンパイクで僕を抜いていった時のように華麗で大胆なコーナーリングフォームで超高速コーナーをクリアしていくアナゴ君・・・。
抜かれた悔しさとともに、僕が900ccに乗り換えたところで一向に色褪せない彼の走りを目の当たりにし、笑みが漏れる僕。

そう・・・。やはり、アナゴ君はアナゴ君だったのだ。


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627 :魔 棲 雄 〜マスオ物語〜:2006/04/06(木) 22:19:11 ID:C7sucwj/
【SCENE48】
再び僕はアナゴ君の後ろを走ることになった。
その見慣れた後姿を見て、僕はふと落ち着きを取り戻す。
・・・僕は何を焦っていたのだ?Ninjaに乗るからには勝たねばならないという過剰な自意識からか?
・・・そうだ、落ち着け・・・。僕とNinjaは今日コンビを組んだばかりだ。なにも焦ることは無い・・・。
アナゴ君・・・、悪いが走りを盗ませてもらうぞ。

アナゴ君に抜かれたコーナーを抜けると、しばしのストレート。スロットルでカタナを抜こうとすれば、それは
不可能な事ではない。
だが、僕はアナゴ君の走りを後ろから眺める事に徹することにした・・・。
ヨンフォアに乗りたての頃、いつもそうやってアナゴ君の走りを見ることで勉強してきた。
彼の熱く、それでいて一本筋の通った確かなライディングテクニックを追うことで、僕は速さを身に付けてきた・・・。
そして、ニューマシンに乗る事になった記念すべきこの日、僕は初心に帰ることにしたのだ・・・。

我武者羅に前に出ようとしなくなった背後の僕にプレッシャーを感じてくれれば、保土ヶ谷に着くまでに再び彼を凌駕するチャンスは巡ってくるはずだ。
必ずアナゴ君の前にもう一度出てやる。
僕が勝ったら彼にはPAでコーヒーの一本でも奢らせよう・・・。

迫るコーナー。アナゴ君に続いて超高速コーナーリングに身を預ける・・・。
尻をやや内側に落とす。
例えこんな速度でも、ハンドルに力を入れないライディングのセオリー。心躍る・・・。
あぁ、彼の後ろはやはり走り易い・・・。

精神的余裕に満たされる・・・。
さっきまで死神の影に怯えて走っていたコーナーが、瞬く間に待ち遠しい悦楽のポイントへ変わる。

ストレートで前に出ようとしない僕を、アナゴ君は時折カウルに深く身を沈めたまま肩越しにチラッと直接目視してくるが、続くコーナーで僕を意識してライディングのテンポを崩すような事は決して無い。
ふと気がつくと、随分前に引き離したはずの鈴木さんが、バックミラーの中で付かず離れずのポジションを
キープしている。・・・さすがだ・・・。

3台の超高速クルージング・・・。とにかく楽しかった。
僕は勝負を忘れ、その快感の中に身を置いていた・・・。
・・・僕らは夜に飛ぶ鳥・・・。深夜の都会を翔る、地上の猛禽類・・・。


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630 :魔 棲 雄 〜マスオ物語〜:2006/04/06(木) 23:11:19 ID:C7sucwj/
解ってきた・・・。第三京浜のコーナーリングのリズムが掴めて来た・・・。
ややスロットルを抜く。それをキッカケにして、焦ることなくゆっくりと車体を倒しこむ。
路面のギャップはNinjaの持つ素晴らしい足回りの能力に任せておけばよい。
決してハンドルにしがみついてはダメだ。
クリッピングをインに取り過ぎない。
先を見通せる余裕を持ったイン側を使い過ぎないライン取りを心がける。

そうだ、ライディングはメンタルが重要だ。
恐怖しない、焦らない、油断しない・・・。自己を律し、そして自己を奮い立たせる・・・。
そう・・・、安定した、そして適度に張り詰めた心・・・。ライディングは魂だ!

あまり多くない一般車両の間を抜けるラインを、数台先まで予測する。
僕らのしている行為が一般社会に許容されるものでないことは重々承知だ。
が、最低限の人間的マナーとして一般車両を驚かせないようなパスを心掛ける。
それは免罪符のつもりでは無い。それが僕のライディングのプライド。

ストレートで僕はアナゴ君に吸い付くように追いすがる。
超高速の風切り音の中で、カタナのエキゾーストノートがハッキリと聞き分けられるほどに接近すると、僕は一気にカタナの右側から再び追い抜きをかける。
速い・・・。Ninjaは本当に速い・・・。いともあっさりとカタナに並ぶ。
そして迫る左コーナー。しかし、アナゴ君も退かない。
アナゴ君はイン側左車線、僕は中央車線。僕らは並んだままコーナーに進入していく。

競い合いながら、しかし見事に息のあった超高速の並走コーナーリング。
その一部始終を後ろで見ていた鈴木さんは後日、その時の様子を語りながら、キミらは本当にいいコンビだな、と笑って言った。

イン側のアナゴ君がやや先行してコーナーを抜けようとする。
僕は立ち上がりで一気に抜き去ろうと、早めにバイクを起こしスロットルを開けようとした。その時だ・・・。

斜め前のアナゴ君のブレーキランプがチカッチカッと3回ほど点滅したかと思うと、彼はスロットルから手を離し、右手のひらを僕に向け静止を呼びかける。

その次の瞬間、再加速しようとしていた僕の目に飛び込んできたのは、猛烈な勢いで迫る保土ヶ谷料金所!


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648 :魔 棲 雄 〜マスオ物語〜:2006/04/08(土) 22:47:51 ID:wfrplY6P
【SCENE49】
猛烈な勢いで迫る、第三京浜保土ヶ谷料金所。
そこに列を為す数台のクルマのテールライト。
突然、目の前に現れた行く手を遮る障害物・・・いや、単に僕がこのコースを知らな過ぎただけ。
アナゴ君との勝負に夢中になり過ぎただけ・・・。

僕へ静止を呼びかけたアナゴ君の右手が、カタナのスロットルを掴んだ刹那、再びパッと点灯するカタナのブレーキランプの赤い光。
そこで初めて我に返った僕は目の前の状況を理解する。
脳から司令を受けた右手人差し指と中指が、フロントタイヤが破綻をきたす直前までブレーキレバーを絞り上げる。
ギュウとほぼ限界までボトムするフロントフォーク。
同時にリアブレーキペダルを踏み込む右足。
フルブレーキングで分布加重が著しく前輪に移動した事によりキュッキュッと断続的にスリップとグリップを繰り返すリアタイヤ。
目前に迫るテールライト。停まれるか?停められるか?
刹那、不安がよぎる。体が硬直する。

料金所に並ぶカローラの後方数メートルのところまで接近して始めて、無事に停車出来そうなことを確信する。
僕がやっとのことでNinjaの慣性エネルギーをゼロにした時、すいている料金所ゲートを選ぶ余裕すらある アナゴ君は僕の隣のレーンで悠々とゲートイン。

負けた・・・。料金所への飛び込みがどちらが先かの問題ではない・・・。
料金所手前の最終コーナー。イン側のアナゴ君は僕よりわずかに先行していた・・・。
ここ公道においては必ずしも明確なわけではないフィニッシュライン。
しかしながら、走っている者同士には不思議にも明確に共有されている勝者と敗者を隔てる空気。
そして、僕はどちらかと言えば明らかに後者。僕は負けたと感じていた・・・。

・・・そう。そもそも勝敗どころの話ではない。
先行するアナゴ君の存在が無ければ、僕は危うく料金所に激突していたかも知れないのだ。
背筋に冷たいものを感じながら、保土ヶ谷PAに入る。すぐ背後にはCB1100Rのヘッドライト。
カタナに跨りながらヘルメットを脱いだアナゴ君の隣に停車すると、彼は満面の笑みで言った。

「俺の勝ちだな!じゃ、缶コーヒーでも奢ってもらおうかな!


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